WHO報道

Press Release WHO/30

感染症会議、ロンドンより                                                          1998/3/24


結核研究所国際協力部
須知 雅史 訳

結核対策における進展が主要な国々で立ち往生した

WHOは結核対策に苦闘している16の国々を確認

結核における「問題地域」によって世界的な対策が危うい

 

ロンドン
16の主要な国々による進展の欠如が世界的な結核対策に対する努力を脅かしている、本日公表された最新のWHO報告書による。

WHOは、ロンドンで開催された健康問題専門家の会議に提供された最新のデータから、世界でもっともやっかいな結核の問題地域を確認した。WHOはまた、16の主要な国々がDOTS、つまり結核対策において有効であると証明された戦略、の使用に向かって移行するのが遅すぎたために、西暦2000年までの世界結核対策の目標は達成されないであろうと発表した。これらの国々は、世界中で年間に発生する700万人の結核患者の内、半数以上の発生源である。

「ある国々の政府は、WHOの世界結核非常事態宣言を深刻に受け止めなかった。」と、WHO結核対策部、古知 新、部長は語った。「ほかのある国々、例えばバングラデシュ、ベトナム、ペルーなどでは、結核を征圧するためにすばらしい進展を見せている。」

問題地域の半数は、中あるいは中の上の所得の国々、ブラジル、インドネシア、イラン、メキシコ、フィリピン、ロシア共和国、南アフリカ、タイである。これらの国々は結核に取り組む財政的資力はあるが、しかしいくつかの国々は、DOTSの成功した実施あるいは拡大に向かって押し進む点で大きく遅れてしまった。

その他の8つの国々は低所得の国々、アフガニスタン、エチオピア、インド、ミャンマー、ナイジェリア、パキスタン、スーダン、ウガンダである。これらの国々もまた、DOTS戦略の採用あるいは拡大した使用を遅らせたために、あまりにも小さな進展しか得られなかった。少なくともこれらのうち4つの国では、治療成功率の低下にみられるように、結核対策に対する彼らの努力の後退があった。これらの国々の多くは、彼らの結核対策努力を完全に採用し早急に拡大するために、財政的支援を必要とするであろう。

WHOは、世界の一部において結核蔓延の隆盛が許される限り、あらゆる国も結核から安全な国はないことを警告した。昨年の末に公表された研究成果は、現状に新たな緊急性を与える、しばしば治癒不能である多剤薬剤耐性結核の拡がりを示した。

「結核は、それが無視された場合はどこでも、拡がるのは確かである。」と、米州保健機構のカーライル・グエラ・ド・メセド前事務局長は語った。「もし我々が、結核が世界のあらゆる隅っこにおいても繁栄し分裂することを許すならば、我々自身の責任においてそうしているのだ。」メセド医師は、進展がみられない国々を如何に支援するかを評価するためにWHOによって召集された主要国際公衆衛生及び結核専門家会議の議長を務める。

WHOによれば、結核の流行は、より長期の広範囲に及ぶ対策努力が遅れたために、制圧することはより困難となるであろう。HIVと結核の致命的な組み合わせが、特にアフリカにおいて、結核蔓延の急激な増加を導いている。不完全に管理された結核対策が、結核を不治の病にするであろう薬剤耐性結核菌の出現の原因となっている。アジアは、世界中で届け出られた結核患者の64%を数え、流行の重荷の約2/3を負担している。より有効な行動がとられなければ、今から2020年までに7000万人の人々が結核で死亡するであろう。

「もし我々が、全世界的な行動への要求する事に再び性急に見えるならば、それは我々が何百万の命を不必要に奪っている病気に対して効果的な解決策を持っているからである。」と、古知博士は語った。「DOTSの使用は過去5年間で約10倍に拡大し、治癒率は約2倍に、そしてDOTSが使用されているところでは薬剤耐性は低い。しかし、この進展が示すであろう感銘的なことのように、この進展は世界の流行の大きさに比べればあまりにも不十分である。」

この16カ国と対照的に、世界の多くの部分、少数の例を挙げればアルメニア、カンボジア、キューバ、ケニア、マラウィ、モンゴル、モロッコ、ニカラグア、オマーン、そしてスロベニアなどで結核対策が成功している。DOTS戦略が、結核を征圧しようと決心するいかなる国においても、高い治癒率と確実な拡大を達成する事ができることが明らかとなった。DOTSは、赤道ギニア、モルジブやセーシェルのような小さな国々同様、バングラデシュのような大きな国や中国の半分の地域で、広範に使用されている。

16ヶ国の内、10ヶ国ではまさにDOTS戦略を使用し始めたところであるので、多くの問題地域が結核対策における成功物語になることが期待されている。アフガニスタン、イラン、メキシコ、ミャンマー、フィリピン、ロシア共和国、南アフリカ、スーダン、タイ、そしてウガンダの国々の全てが、1996年からDOTSを実践し始め、これらの初期の努力からの治療成績が、今年の終わりには分析可能となるであろう。

世界的にみて、DOTSと同様に迅速、かつ成功裏に拡大した健康におけるイニシアチブはほとんどない。全世界で、DOTS戦略の使用は、1995年の報告患者数704,920人から、1996年の887,731人、26%増に増加した。世界結核対策1998年版報告書によれば、1993年の19ヶ国に比し、96ヶ国がDOTS戦略を使用し始めた。DOTS地域の患者の治療成功率は、非DOTS地域の45%に比し、78%であった。

編集者へのメモ

 1. WHOの推奨する治療戦略DOTSは、5つの要素からなる:政府の取り組み、喀痰塗抹顕微鏡検査による患者発見、直接監視下による短期化学療法、安定的な薬剤供給、とモニタリングシステムである。ひとたび顕微鏡検査で感染性患者が発見されたら、保健ならびに地域のワーカーと訓練されたボランティアが、患者が正しい用量の抗結核薬剤を服用したか観察、記録し、患者が治癒したことを文書で証明する。もっとも一般的な抗結核薬剤は、ヒドラジド、リファンピシン、ピラジナマイド、ストレプトマイシン、そしてエタンブトールである。
2. 世界結核デー(3月24日)は、ロバート・コッホ博士が、疾病の治療、治癒、そして制圧の可能性を導いた、彼の結核菌の発見を発表した1882年のその日を記念している。
3.4.省略


Updated 98/04/23