結核の制圧と医科大学 その1
(WHOのワークショップの報告)

訳 日本結核病学会教育委員会

松島敏春 堀江孝之 四元秀毅 長谷川好規

石崎武志 米田尚弘 川根博司 城戸優光   

 結核を制圧するために医科大学はどのようであらねばならないかを検討したWHOのワークショップでの報告である。 まず、ワークショップが開かれた根拠や目的が述べられ、続いて、現在結核は世界的にみて緊急に対応すべき疾患であり、 WHOの結核制圧プログラム(DOTS戦略)がうまくいっていない事実を述べている。 しかし、DOTS戦略にて結核の制圧は可能だとし、その中心的役割をするのは医師であり、良い医師(“五つ星”医師)の条件、 そのための準備と実践、必要とされる知識、技能、態度について表も加えて詳しく述べられている。 医科大学も結核制圧問題を通して健康問題に関与する必要性があるとしているが、医科大学の果たすべき役割に関しては次の号で紹介する。

 この論文はWHOの Global Tuberculosis Programme が“結核の制圧と医科大学”というワークショップを開催して、 決議された内容の報告である。この報告書は、保健担当大臣、国の結核対策委員、医科大学学長、医学専門学会(日本では結核病学会)の代表、 NGOへ送らねばならないと明記されている。
 この報告書を本誌に発表することになった経緯は、日本結核病学会常任理事会から、教育委員会で翻訳、投稿してほしいと依頼されたことによる。 教育委員の先生方に訳していただき、委員会としてまとめた。著者らが日ごろ接する科学論文と異なり、極めて難解であった。 日本文としておかしくない程度で、なるべく原文に従った。意を尽くしていない点もあると思われるので、意味の分かりにくいところはぜひ原文を読んでいただきたい。 Medical School は医科大学として一本化した。その他できるだけ用語の統一を図り、また教育委員会の先生方の文章を変更したので不満もあったかと思われる。 WH0の翻訳文であるこの論文が、緊急事態宣言がなされたわが国の結核対策に役立つことがあれば幸せである。 (松島敏春)

目次


第T部(今回)
Tはじめに
1.理論的根拠
2.ワークショップの目的

U背景
1.結核は世界的な公衆衛生上の関心事である
2.結核制圧における医師の中心的役割
3.緊急的な健康関心事に医科大学が適応する例としての結核制圧の事例

V臨床医の結核トレーニング

1.将来の医師像
2.五つ星医師の育成と準備
3.将来の医師に必要な基本的知識(knowledge)、技能(skills)、並びに態度(attitudes)

第U部(次回)

4.将来結核のコーディネーターになる人に必要な管理上の技能
5.教育戦略
6.学生の行動の評価
7.医科大学へのフィードバック

W結核の領域における医学教育と実地臨床の持続的変革に対するパートナーシップを通じての保証
1.医科大学における結核に対するプロジェクトチーム
2.医師のトレーニングにおけるパートナーシップ
3.実地臨床と卒後トレーニングにおけるパートナーシップ

X勧告


第T部


 World Health Assembly の「医学教育と臨床における変革のための決議案」を受けてWHOの世界結核プログラム (Global Tuberculosis Programme : GTB)は、”結核の制圧と医科大学(Tuberculosis Control and Medical School)” というワークショップを開催した。このワークショップは1997年10月29〜31日にイタリアのローマで開催され、 WHOの6地域、16カ国から25名が参加した。 参加者の専門領域は、微生物学、臨床呼吸器学、感染症、放射線学、公衆衛生と医学教育であった。 参加者のほとんどは、現在、あるいは過去に医科大学、もしくは国の結核プログラムにおいて指導的な役割をしている。
 将来の医師になる者がかかわる広い分野の責任を考慮し、また世界各国の保健機構の発展に沿って、結核の制圧における医師の役割が討議された。
 医師が結核を管理するために求められる知識、技能、態度についてのリストが決定された。 教育戦略における種々の選択肢についても検討され、その第一は結核のあらゆる面と結核の制圧とを包括的に一つにまとめることであった。 その他公衆衛生と関連する重要な事柄を学ぶ必要性もあることから、卒業前に臨床的な技能と態度を適切に評価することの重要性が強調された。
 医学教育カリキュラムと医学の実地臨床に必要な変革を開始し、成功させ、持続するために、 個々の医科大学で“結核に対するプロジェクトチーム”を設けることがワークショップでは推奨された。このプロジェクトチームの仕事は、 厚生省、国の結核対策プログラム、医学会、国の団体や組織または地域の研究機関と緊密な関係をもち、実地臨床や卒後研修にまで拡大させていくことが望ましい。
 すべての段階においてプロジェクトチームは、ヘルスケアの配分、実地臨床、医学教育における変革の過程でパートナーシップの重要性を認識し、 適切なパートナーシップを生み出していくべきである。
 WHOは地域や全国レベルでプロジェクトチームを育成する媒体となり、源となることが望まれる。

Tはじめに

1.理論的根拠
 1995年のWorld Health Assembly,1996年のGTBの Coordination Advisory and Review Group (CARG)の勧めに基づき、1997年10月29〜31日に、イタリアのローマにある Universita Cattolica del Sacro Cuore の Congress Centre で、“結核の制圧と医科大学”に関するWHOのワークショップが開催された。

●“医学教育と臨床実地の新しい方向づけ”についての World Health Assembly の決議案(1995)は、臨床医は健康管理の運用( health care delivery )の重要性、質、費用効果の向上を実現するために中心的な役割を果たすことができるとし、将来の臨床医に望まれるあり方について明らかにしている。決議案を実行させるためのWHOの戦略は”健康のための医師( Doctors for Health )”の文書の中で明らかにされているごとく、”すべての人々の健康( Health for all )”に最善を尽くして立ち向かうために、健康管理、実地臨床、医学教育での改革を奨励している。

●WHOの結核制圧プログラム(DOTS戦略の名で知られている)は結核をコントロールするための最善の方法であることを考慮し、GTBのCARGは、1996年11月6日に開催された第6回総会で医科大学や研究機関やWHOの組織とパートナーシップを作り、医科大学カリキュラムや看護学校の講義材料を含めた関連するトレーニング資料に「結核の制圧とDOTS戦略」を取り入れることを推奨した。
 “結核の制圧と医科大学”に関するWHOワークショップは、ローマの Instituto di Microbiologia, Unicersita Cattolica del Sarco Cuore の支援のもとに、ジュネーブにあるWHO本部の2部門すなわちGTBと Human Resources Devolopment and Capacity Building (HRB)によって準備された。WHOの6地域、16カ国から医学教育と結核制圧の専門家25名が集まり、適切な准奨すべき内容をまとめた。

2.ワークショップの目的
ワークショツプの目的は次の点である

  1. 将来の臨床医が結核制圧の管理に貢献できるように、必要なカリキュラムの内容と学習課程を明確にすること
  2. 国の結核制圧戦略を実施するために、医科大学と関連団体の協力関係を密にするための方策を示すこと
 

U背景

1.結核は世界的な公衆衛生上の関心事である

●1993年にWH0は、結核は世界的な緊急疾患であると宣言した。 世界人口の約1/3が結核菌に感染しており、1996年には約800万人の新規結核患者の登録があり、 そのうち300万人が死亡している。世界的にみて結核は、単一原因菌による死亡の第1位である。
 結核症例の95%、結核死の98%は途上国で起こっている。結核死は途上国において、避けうるすべての死の25%を占める。 結核症例の75%は20〜49歳の年齢層に起こっており、この人たちは子供をつくる年齢の男女である。将来においても、 結核は世界の10大死因・疾病の一つであり続けるであろう。また、多くの国で結核の割合は減ずるであろうが、2020年には新規の結核患者総数は1千万人に達することになろう。

●結核が世界的に増加する主な要因として、以下のようなものがある。

  1. 貧困。これは途上国のみならず、開発国の都市部の住民においてもみられる
  2. 統計学的人口の変化。世界人口の増加と年齢構成の変化
  3. 不十分、かつ不適切な健康保護。住民、特に貧困層およびすべての国の病気に罹患しやすい住民層において
  4. 結核制圧プログラムに対する無知と資金提供の不足、その結果、症例の発見と管理が不適切となり、治癒率が低下する
  5. HIV感染の影響。主としてアフリカ、アジアのいくつかの国
●上述の問題があったとしても、世界的な結核の制圧は可能である。WHO結核制圧プログラムは、現存の診断技術(喀痰塗抹検査)および治療法(短期化学療法)を効果的に活用するための組織的体制である。世界銀行はこの政策をすべての健康政策のうち最も経済効果の高い政策と考え、塗抹陽性患者に効果的な短期化学療法を行うことがプライマリーヘルスケアにおける基本的な臨床サービスの一部であるべきと勧告した(1993年報告)。
 WHOの結核制圧プログラムの五つの主要構成は以下のとおりである、@政府の関与、A受動的患者発見(有症状検診)と喀痰鏡検による症例の発見、B少なくともすべての塗抹陽性患者に対する直接監視下の短期化学療法(DOTS)、C定期的な薬剤供給、D監理および評価のためのモニタリングシステム。

●WHOの結核制圧プログラムを適用している国々では、感染性症例(塗抹陽性)の減少傾向がみられ、治癒・成功率が80〜90%へ向かっている。
 1996年には、世界人口のわずか30%がDOTS戦略に接したにすぎない。全世界の症例発見率は、2000年目標を70%としていたのに対して38%であり、全世界における治療の成功率は、2000年目標を85%としていたのに対して58%である。
 2000年達成を計画していた全世界における目標を2000年から2020年の間になんとか達成しようとするならば、明らかにDOTS戦略を、より広範に実行する必要がある。

2.結核制圧における医師の中心的役割
 結核治療法の原則は30〜40年前に確立され、短期化学療法の効果は約20年間にわたって確認されているのに、今なお世界の多くの地域で結核は適切に診断されていないし、治療されていない。資源不足、政府の関与不足、国家的な結核制圧プログラムの不十分な実施のみが世界的な結核増加に対応できなかった原因というわけではない。医師にも多くの責任があり、それは例えばX線検査や喀痰鏡検の不適切な利用による不十分な診断、標準的でもなければ一般に受け入れられてもいない方式や量での抗結核薬使用、不適切な治療期間、治療中の患者モニターの失敗、患者や家族に対する結核についての説明不足、塗抹陽性肺結核患者の家族の追跡失敗、などである。これらの誤りは公的機関のみならず私的施設でも起こっている。
 その結果、誤診を受けた患者に資源が浪費されるのみならず、多くの国で結核患者に対して不適切な抗結核薬が使用されることにより耐性結核の増加の問題が起こり、さらに多剤耐性結核の発生と増加がみられるようになっている。したがって今や、医師の結核に関する知識を改善し、患者の診療および一般社会における結核の適切な診断と治療をするために必要な技術訓練をすることが重要である。医師が結核の診療を適切に行えるように訓練することができなければ、DOTS戦略は成功しないであろう。医師が結核制圧に積極的に参加することは他の医療スタッフに“波及”効果をもたらし、その人たちが容易に参加するようになることは明らかである。

3.緊急的な健康関心事に医科大学が適応する例としての結核制圧の事例
 健康を守るための投資が増加するにつれて、投資した資本に見合う効果を得たいという希望が高まり、 健康管理部門の責任者は資本投資が健康保護と健康状態を改善するのにどれくらい役立っているかを示すよう求められている。 このような健康部門への投資から、医療の質と管理の面での、より良い結果を要求するというのは最近の傾向である。 医科大学も社会が期待する重要な変革に無関心であり続けるべきではなく、資本投資する側は予想される変化に医科大学が反応することを見極めて投資を決定するかもしれないし、 あるいは、将来の健康管理システムに貢献するべく、大学の内在する力を活用することを図るかもしれない。 もし医科大学が社会の進歩に貢献する力をもち続け、結果として納税者の支持を受けようと望むなら、一般社会の健康についてある程度の責任を受け入れなければならない。 社会の二一ズに完全にこたえるには、医科大学はその教育の結果に責任をもたなければならない。すなわち、 卒業生が効果的に、かつ期待されているように働いている証拠があるか、研究成果は健康保持のサービスに前向きのインパクトを与えたり、あるいは健康保持について有用なものを示しているか、 行われた健康サービスはモデルとなりえ、二一ズに適切にこたえているか、などである。 しかし、医科大学は政府や健康局が設定した健康政策を積極的に支持することができる。 医学教育、研究および結核医療の現状を変えることで、医科大学はその社会的責任を示す機会をもっている。 結核は公衆衛生の面においても、一般社会的な面においても大きな関心事であり、医科大学は優先的にこのことに対応すべきである。  

V 臨床医の結核トレーニング

1.将来の医師像
 前述してきた役割を果たすためには、医師は卓越した医師、いわば五つの適性を兼ね備えた五つ星の医師であるべきである。五つ星とは:
★ケアの提供者であること。つまり患者を個人として、あるいは家族や地域の一員として全人的にとらえ、かつ相互の尊厳と信頼に根ざした“医師と患者の相互関係”を通して、高度のケアを提供できる者であること。
★決定者であること。つまり倫理的および経済効果的観点から、患者ケアの質を高めるために、どの技術を用いたらよいか選択できる能カをもっている者であること。
★伝達者であること。つまり健康的な生活スタイルを促進することができるよう、文化的;経済的観点から効果的な説明や提唱を行うことができ、それにより、個人と集団を力づけ、その健康を改善し、守ることができる者であること。
★地域のリーダーであること。つまり地域の尊敬と信頼を得て、個人と地域住民の健康に必要なことの相談にのり、地域住民の代表として必要な行動を起こすことができる者であること。
★マネージャーであること。つまり患者や地域の要求を満たすために、健康ケア制度に関する内外の個人や組織と、効果的かつ協調的に業務を遂行できる者であること。
 このような五つ星の医師は、患者や地域に奉仕するのみならず彼らから尊敬を得ることができる。

2.五つ星医師の育成と準備
 五つ星医師(理想的医師)の定義は、医療機関と一般社会に幅広く諮問されて、 なされるべきであるが、これは医師養成機関である医科大学の主な仕事でもある。結核は現在、世界的にまん延してきており、 五つ星の能力をもった医師の育成と供給は、結核の制圧に必須である。このような医師は、 結核患者の増加を食い止め、結核による個人的および社会経済的損失を減少させるにとどまらず、もっと核心的な役割を果たすべきである。 また、医師以外のヘルスケア提供者(コメディカルスタッフ)も、五つ星医師に必要な適性のいくつかを有しているので、重要な役割を果たすことができる。 しかし、彼らの能力はそれまでの自己学習と関係なく、一緒に仕事をする五つ星医師の能力による。 疫学的にみた結核の現状は、緊急的状況と、世界の医科大学、特に結核まん延国の医科大学が結核へ挑戦しなければならないということを示している。 そのため、医科大学における結核教育の充実の必要性が、途上国と開発国間のワークショップでも再確認されている。
 医科大学はすべての卒業生に、結核の管理に必要な知識 (knowledge)と技能(skills)、 および態度(attitudes)を与えるべきであり、さらにそのような能力を培うことができるよう、効果的な医学教育戦略をもつべきである。 また、教育の成果は医学部学生が卒業して医師となる前に正しく分析され、評価されるべきである。


表1 これから医師となる者が結核について知っておくべきこと
医師としての資格を得るときに、一般医として以下のような事項を知っておくべきである。

  • 結核に関する社会的問題点と国の結核対策指針を知ること
    1. あなたの国において結核がどのような重要な意味をもつかについて記述するとともに、疫学的な面からみて、世界の状況とあなたが実際に診療に携わる地域の状況について比較しなさい。
    2. 市中における結核菌の伝播、それを促進させる要因、また感染から発病に進展する危険性の増加要因について説明しなさい。
    3. あなたの国の結核対策指針の目的、目標、戦略、並びに主要な項目についてリストアップしなさい。
  • 結核に関する基本的事項を知ること
    1. 喀痰塗抹検査での結核菌の形態学的特徴と、培養での結核菌コロニーの形態学的特徴を記述するとともに、結核菌の主な生物学的特徴と人の体内における増殖の条件について記述しなさい。
    2. 病理学的並びに免疫学的な立場から結核菌の感染と発病の経過について記述しなさい
  • 結核の管理方法を知ること
    1. 成人における肺結核症の診断。
      1. 肺結核症を示唆する症状、身体所見、胸部X線写真の特徴を認識しなさい。
      2. 最も身近な検査室にて塗抹検査をするために、結核疑いの患者から喀痰のサンプル(理想的には3検体)を集めなさい。
      3. 結核菌を検鏡で同定できるように喀痰塗抹標本の準備と染色方法を知りなさい。
      4. 国の結核対策指針に従って、肺結核患者を塗抹陽性群もしくは陰性群に区分しなさい。
      5. 結核患者の個人記録を開始しなさい。
      6. 地域の結核管理責任者または国の結核対策指針事務局へ症例を報告しなさい。
    2. 一般によくみられる肺外結核(例えば、結核性髄膜炎、結核性胸膜炎、リンパ節結核、骨・関節結核、腹膜結核など)と小児結核に関する診断基準を記述しなさい。
      1. 結核症を疑う症状、身体所見、X線上の特徴、生化学的・細胞診断的特徴を認識しなさい。
      2. 肺外結核ならびに小児結核の診断基準を記載しなさい。
      3. 地域の結核管理責任者または国の結核対策指針事務局へ症例を報告しなさい。
    3. 治癒するまで結核患者を治療しなさい。
      1. 治療を始める前に患者とその親族に話すべき内容について列挙しなさい。
      2. 患者がどの治療カテゴリーに属するのか、また、何か特別な適応条件(例えば妊娠とか、腎不全とか、肝疾患のような)を有するかどうかによって、国の結核対策指針の考え方に沿った抗結核治療を処方しなさい。
      3. 国の結核対策指針により推奨されているように、治療期間中にときどき喀痰塗抹検査を確実に行いなさい。
      4. 抗結核薬の一般的な副作用に注意を払い、すぐに対処すべき副作用や、他施設へ紹介すべき副作用をすばやく認識しなさい。
      5. 直接監視下の治療を、特に治療を開始した時期には確実に実行しなさい。
      6. 治療が成功しているか、失敗なのか、再発であるかの診断基準を知っておきなさい。
      7. 地域の結核管理責任者または国の結核対策指針事務局へ治療の転帰について報告しなさい。
    4. 塗抹陽性結核患者の家族内接触者を検診しなさい。
    5. 塗抹陽性肺結核患者の家族内接触者に対し、国の結核対策指針の考えに従って、INHの投与、もしくはBCG接種を行いなさい。

 

表2 これから医師となろうとする者が結核管理を行ううえでの心構えと必要な手技

これから医師となろうとする者は、トレーニング期間の終了時に、以下の事柄を修得しておくべきである。

  1. 異なる言語や文化を理解し、患者や親族、さらに地域社会やその健康管理に携わっているチームと良い関係を築きなさい。
  2. 患者のもつ医学的、社会的(家族、仕事)問題点を正確に知るために病歴を聴取し、臨床検査を実施しなさい。
  3. 既に抗酸菌が陽性であることが分かっている喀痰を用いて、3枚の塗抹標本を作製し、抗酸菌染色をしなさい。そして国際的に認められている評価方法に従って抗酸菌の数を報告できるように、顕微鏡下で正しくスライドを観察しなさい。
  4. 正常や異常の胸部X線写真から、活動性肺結核に一致する所見を正しく認識しなさい。
  5. ツ反応を実施し、ツ反応の結果を読みとり、記録しなさい。
  6. 胸腔穿刺を実施し、顕微鏡検査(もしできるならば培養検査)と生化学検査のために胸水を提出しなさい。
  7. リンパ節の吸引検査を実施し、その吸引物を顕微鏡検査(もしできるならば培養検査)へ提出しなさい。
  8. 結核患者が成人であれば本人に、小児であればその両親に結核の診断と伝播の仕方、並びに治療管理計画について説明しなさい。
  9. 国の結核対策指針の書類に従って、治療カードと登録の記録を書き込みなさい。
  10. 結核管理のうえでの適切な意志決定をしなさい。例えば、以下のような状況であれば専門医へ紹介しなさい。
    1. 結核の合併症(例えば、重篤な喀血や気胸など)
    2. 抗結核薬の副作用
    3. 患者登録されている地域から患者が転居するとき
    4. 早期の治療中断
    5. 基礎疾患の存在(例えば、HIV感染、糖尿病、腎不全、肝疾患など)や特殊な状況(例えば、妊娠)
  11. 看護婦や他の健康管理に携わる者に以下のような助言をしなさい。
    1. 結核患者とその家族に対する健康教育
    2. 2日以上かけて(理想的には3検体の)喀痰検体を集める方法と、それらに正しくラベルを付け、塗抹検査を依頼する書類とともに最も身近な検査室に送る方法
    3. 直接監視下の治療の確認
    4. ひどい副作用を見つけること(黄疸や過敏症や難聴などのようなもの)
    5. 結核の管理や治療に参加しない患者の追跡調査
  12. 患者の転帰を正確に登録しなさい。
  13. 専門的連携を形成しなさい。
    1. 塗抹検査(もしできるならば培養検査)や生化学的検査、細胞診に関する検査室との連携
    2. 紹介病院や結核コンサルタントとの連携
    3. 患者登録地域の結核対策指針における医学的責任者(日本では所轄保健所長)との連携



3.将来の医師に必要な基本的知識(knowledge)、技能(skills)、並びに態度(attitudes)
 基本的知識の一覧を表1に示した。新しく医師免許を取得した医師は、世界的、国家的、地域的にもたらす結核の負担と、 自国の結核対策を理解しておく必要がある。そして基本的な結核の医療と科学的側面を周知したうえで地域との関連、国家的結核対策指針(National Tuberculosis Programme;NTP)に照らして、結核を管理し、早く正確に診断し、適切に治療することができるようにならなければならない。 もし、NTPのような結核対策指針がなければ、WHOや結核と肺疾患国際連合(International Union Against Tuberculosis and Lung Disease : IUATLD)などの推奨するものに準拠すべきである。
 表2に実地診療の場において結核の知識を現場で役立てる具体的技能や態度を示した。迅速で正確な検査結果を、 個々の医師に報告できるような優れた微生物検査センターのネットワークがある国では、医師自らが顕微鏡的検査は行わなくてよいであろうが、 医学生のときにどのように検査するかは教えておくべきである。 


Updated 01/01/30