ツベルクリン反応検査の二段階法

  国立療養所広島病院
         第二呼吸器科医長  重藤 えり子

 

●はじめに

 「ツベルクリンってそんなにいいかげんな検査なんですか?!」小学校一年生の子供が学校の健康診断でツ反応陰性だったのですが、BCG接種を受けるチャンスを逃してしまい、夏休みになってからBCG接種を受けようと受診しました。そこで再度ツ反検査をして、「陽性、BCG接種は不要」と言われたお母さんの言葉です。
 ツ反応はその結果に変動がある検査です。個人レベルでみればその変動はかなり大きく、「陰性」が「陽性」になることもしばしばです。しかし、その動きには要因により一定の傾向があります。大きな変動要因がBCG接種であり、接種後にはツ反応の減弱と回復現象(いわゆるブースター現象)が起こります。

 


●BCG接種後のツ反応

 BCG接種は、結核菌に対する免疫(菌を抑える方法)を前もって予行演習で勉強しておくようなものです。そして、ツ反応はその免疫を小テストで測ってみる検査と考えられます。平均点は、その集団の性質や教え方(接種の方法と技術)によって違ってくるでしょう。人によって点数はばらつきます。同一人に同じテストをしても、体調などによりいつも全く同じ点数がとれるとは限りません。BCG接種後のツ反応から感染の診断をすることが難しいのは、このばらつきがあるからです。
 さらに、勉強した知識というものは覚えてから時間がたつと、特にその間に一度もその知識が必要とされなければ、だんだん忘れてしまいます。忘れている時にいきなりテストをされたら、いい点はとれないでしょう。でも、一度自分で獲得した知識はたいてい思い出せるでしょうから、しばらくして再テストをすれば、その人が以前勉強した直後と同じような高い得点が得られることが多いと考えられます。BCGによる免疫も似ています。図1にBCG接種から4ヵ月後と1年4ヵ月後の、中学生のツ反応分布を示しました。1年以上間があくと分布は左寄りになり、接種4ヵ月後よりも反応は弱くなっています。もし、この後再検査をすれば、4ヵ月後と同じレベルに戻ると考えられます。反応が弱くなった時にツ反を行うと、これが刺激となって免疫記憶の増強が起こり、その後の反応は強まるのです。これがツ反応の回復現象です。反応の回復は1〜5週間後に最大、48時間以内では十分に回復しておらず、また60日を超えると弱くなってゆきます。

図1 BCG接種後のツ反応の減弱
 BCG接種後の反応の減弱の程度は人によって様々なようです。減弱が大きい人は回復も大きく、減弱がほとんど見られない人は回復現象もないと考えられます。いずれにしてもツ反の二段階法は、この回復現象を起こさせ、その人の最大の反応を引き出すための手段なのです。  


●二段階法でどのくらい変動するか

 今述べたように、回復現象には個人差があると考えられますが、集団としてどのくらい変動するのかを看護学生に行った二段階ツ反検査から考えてみましょう。ほとんどがBCG既接種と考えられる集団です。図2左に赤発径の変動の様子を示します。80%の人の変動は10ミリ未満です。しかし、20ミリ以上の増大も10%あまり見られ、かなりばらつきがあります。ただし、実際に検査・計測をしていると分かるのですが、変動が大きいのは大半が二重発赤があった場合で、しかも外発赤が薄くて境界も決めにくいことがまれでなく、これが大きな変動幅の原因になっているようです。

図2 看護学生における二段階ツ反応
 日本以外では、ツ反の反応径とは発赤径ではなく硬結径です。同じ検査における硬結径の変動を図2右に示しました。一人を除いて変動は±10ミリ内に収まっています。発赤径と硬結径−計測技術の問題も大きく、どちらをとるかいろいろ議論があるところですが、二段階法で見る限り硬結径の方が変動幅が小さく、安定した値が得られて判断が容易であると考えられます。二段階法による硬結径の変動は、平均で+2.6ミリ、ばらつきの指標である標準偏差は5.9ミリでした。これには個人の反応の揺れや注射・計測の誤差も含まれますが、これらと回復現象による反応の増大を総合しても、その集団の大半の人は2回目と1回目の硬結径の差が+14.4ミリ(平均+標準偏差の2倍)までであることを示します。発赤径では、同様の条件で算出した変動幅は+31ミリとなります。なお、この数字は、看護学生という条件のわずかな検査数から割り出したものなので、まだまだこれから検討が必要です。この程度の変動なのかという感じをつかむだけにしていただきたいと思います。  


●二段階法が必要なのはどのような場合か

集団感染が疑われる時、患者発見直後にツ反検査を行い、念のため2ヵ月後にも再検査 を行ったという話もよく聞きます。回復減少を考慮せず、「2回のツ反検査結果を比較して発赤径が20ミリ以上大きくなったら感染」と考えると、感染が起こっていなくても1割以上の人が感染を受けたと判断されてしまうことになります。回復現象があるような間隔でツ反検査をする場合には、初回の検査は二段階法でしておかないと、2回目の反応が大きくなっていても感染によるものなのか回復現象なのか区別できません。しかし、集団感染はどこで起こるか分かりません。すべての人に二段階法ツ反検査を行っておくことは非現実的です。このような場合には2ヵ月待ってから、1回だけの検査で判断するのが適切とされています。
 では、二段階法で検査しておくべきなのはどのような人たちでしょうか。結核感染の機会が多い医療従事者はこれに該当します。医療従事者は雇入れ時にこの方法でツ反検査を行っておくべきです。検査の間隔が数年以上であれば、回復現象はあまり現れないと考えられますが、感染のチャンスはいつあるか分かりません。30歳代までの若い医療従事者で、ツ反応発赤径が30ミリ未満、または硬結径20ミリ未満の場合は二段階法で行っておくべきでしょう。逆に、医療従事者でもツ反が不要なのは、過去に強陽性であったか、または結核性疾患の既往がある場合です。また、BCG接種後2〜6ヵ月の間にツ反検査をした場合には反応の減弱は起こっていませんので、その時の記録があれば、改めて二段階法で検査する必要はないと考えられます。

 


●BCG接種と二段階ツ反

 最初に戻り、小中学生などでBCG接種をするかどうか判断するためにツ反応検査をする場合、二段階法は必要ないのかという疑問があります。 ここで留意しておいていただきたいのは、ツ反応は結核の免疫をすべて表すものではないということです。大体の傾向を知るための小テストです。 テストの点数と現場での実務能力が必ずしも一致しないこともあるでしょう。ツ反応も、「陰性」なら免疫がないか低いであろう、 反応が強ければ菌に対する反応性が高いだろうとは言えますが、二段階法で反応が「回復」して陽性になったから免疫も回復したとは言えません。逆に、ツ反応が減弱して陰性になったから免疫も失われているとは言えません。全体的にBCGの接種率や接種技術が低く、ツ反陰性者が多い時には、もう一度接種をしておくことは意味があるでしょうから、「陰性者」に接種するということでよいと思います。でも、たまたま再検査をした場合には、2回目の反応を基準にして差し支えないと考えます。
 結核菌に感染しておらず、BCG接種も受けていない時は、ツベルクリンを何回注射しても反応するようにはなりません。ただし、非定型抗酸菌の感染はツベルクリンに対する交差反応を起こさせ、回復現象もあると考えられます。非定型抗酸菌の感染は少なくない(発病率は非常に低い)ので、BCG未接種、結核未感染でもツ反陽性や「回復現象」はありえることに注意が必要でしょう。
 成人である医療従事者の場合、2回とも陰性であったらBCGを接種すべきかという問題については、結論はまだ出ていません。しかし、二段階法で陰性であったことが分かっていれば、将来の感染診断は容易です。職場での結核感染の危険度が低く、健康管理も適切にされている場合には、BCGを接種しない選択もあってよいと思います。
 

●おわりに

 若い医療従事者には、就職時にツ反を行って自分の反応径を知っておくこと、強反応以外は二段階法で、その人のそれまでの最大の反応性を引き出しておくことを勧めます。そして大切なことは、その記録を個々の健康管理のために保存し、感染診断ができるようにすることです。大半の人がBCG既接種である日本ではとりわけ、ツ反による感染診断はむずかしいのです。二段階ツ反検査を行っておくことにより、感染機会があった時に、適切な時期に、より確かな判断ができるようにしたいものです。結核は感染しないようにすることが第一ですが、感染しても未発症の状態で感染を知り、発病を防止することが望ましいのです。


Updated 99/10/28