アジア太平洋結核対策ワークショップ

            1020日〜117日/北京市(中国)

 

 19971020日から117日まで、中国北京市で結核予防会とWHO西太平洋地区の共催により、日本財団の協力を得て、「アジア太平洋結核対策ワークショップ」が開催されました。結核対策管理研修コースとして、本ワークショップには、WHO西太平洋地区内の14ヶ国から25名の医師が参加し、他に中国人医師数名が加わって実施されました。筆者はその中の1名として参加しましたので、内容を簡単に紹介いたします。

 第一週目は、島尾結核予防会会長による結核の疫学、対策、診断及び開業医の結核対策における役割等の講義や、エナーソン博士(国際結核胸部疾患連合)による結核の病理、疫学、結核対策の原則、結核とHIV感染症等の、結核に関する基本的事項の講義がなされました。結核菌の細菌学については金博士(大韓民国結核研究所)より、講義と抗酸菌塗抹染色の実習とがありました。中国保健省の結核対策についてドゥアム・ホン・ジン国家結核対策センター長から紹介され、また、北京市におけるDirectly Observed Treatment, Short-course(DOTS)の導入の経緯についてリ・チン・ツアン中国結核予防会理事長から説明されました。その他に、結核対策における費用効果分析、薬剤供給体制、宣伝、結核対策におけるNGOの役割、これまでにDOTSが導入された幾つかの国々における経緯の紹介等がなされました。

 第二週目には、WHOが作成した国家レベル結核対策モデュール(国レベルでDOTSを含む結核対策を導入するための諸原則を説明文と練習問題を通して学ぶもの。)と、郡レベル結核対策モデュール(郡レベルにおける結核対策の実際面により則した内容のもの。結核の治療、診断、登録、報告、細菌検査、薬剤供給体制及び末端部への指導監督等についての説明及び練習問題を含む。)が、5つのグループに別れて実施されました。

 第二週目週末からは、北京市郊外の河北省石家庄地区()(人口約860万人)を訪問し、中国における結核対策活動の現場を見学しました。訪問第一日目に石家庄市結核対策局から、同市における結核対策の経緯と最近の結核患者の登録状況及び登録患者の治療成績についての説明がありまして、1996年の人口10万人当たりの新登録塗抹陽性結核患者数は31.6、同年に新登録された患者の治癒率は98%との事でした。第二日目からは4つのグループに別れて、石家庄市近郊の郡レベルと、それより末端部の活動状況を見学しました。筆者の所属したグループは、鹿泉(Luquan)郡及び申后(Shenhou)地区の各結核担当部局、申后村のクリニックや治療中の結核患者宅を訪問して、村医や治療中の患者から話を伺いました。中国におけるDOTSの中心的役割を果たしている、いわゆる'はだしの医者'(村医)は、村レベルのクリニックで働いており、ここで出会った医師は普段農作業も行っているとのことでした(もちろんはだしではなく、靴をはいています。)。村医は、その地域で人望のある人が推薦されて二年間の訓練を受けて後に医師として働くようになり、咳、下痢、発熱、腹痛、軽い外傷等の症状を訴える患者に適当な薬を処方しています。村医は、1日おきに村のクリニックを訪れて来る結核患者に抗結核薬を投与して、患者が薬を服用するのを確認しています。

 DOTS導入地域で結核患者の治癒率90%以上を維持している中国において、結核対策の基礎を学び、いかにDOTSを導入すべきかを実際行われている結核対策を通して考えることができたことは、筆者にとって大変有意義なものでした。今後もこのような研修が継続して持たれることを期待しています。

大角 晃弘


Updated 98/03/06