開会式壇上の面々:左端アン・ファニング会長(カナダ),2人お
いてビロ事務局長,筆者,ラビリオーネWHO Stop TB部長(右端)




 600名程度が参加した開会式では,会長(Dr.Ann Fanning カナダ),事務局長(Dr.Nis Billo スイス),WHO/Stop TB Department部長(Dr.Mario Raviglione イタリア),特別招請講演者(Dr.Jeffrey Koplan アメリカ),TB/HIV患者(Zulu氏 ザンビア)等と共に筆者が壇上に並んだ。SARSを軸に近代の伝染病に関する講演に続き,家族をすべてHIVで失った,自らもHIV/TB患者であるZulu氏の話は印象的であった。学会賞授与があり,最後に秩父宮妃記念結核予防世界賞授与式があった。筆者が,この賞は日本の結核予防会の世界貢献の印として,本会の名誉総裁である故秩父宮妃を記念して,結核対策に優れた功績のあった人に与えられることを説明し,今回IUATLD学術部長エナソン教授(Dr.Donard Enarson カナダ)に授与した。日本の世界的貢献の意図が位置づけられたと思われる。
 4日間の内容は,教育講座,シンポジウム,一般演題及び討論と盛りだくさんな内容で,刺激的であった。私はここ数年この世界大会に出席していないので正確に比較できないが,1,000名を超える参加者数や豊富な内容でIUATLDがますます盛り上がってきた感じである。
 大きな山はまずDOTSで,DOTSをさらに早く拡大させるにはどうすればいいか,そのための世界的資金の動きや使い方,人材育成の方法,PPM(公私連携)の促進などがあった。
 TB/HIV,すなわちエイズまん延地域の結核対策のあり方は大きな関心事である。せっかく結核治療がなされても治療途中で3割以上がHIVで死んでしまう。エイズ治療薬が世界的に入手できるようになり,“3 by 5”のスローガン「2005年までに300万人にエイズ治療を広める」が掲げられているが,必ずしも容易ではないだろう。しかしDOTS+ART(結核治療とエイズ治療の併用)は今や結核対策に不可欠の要素になりつつあるという実感である。
 新しい抗結核薬の開発も議論され,新キノロン剤であるモキシフロキサシン(Moxifloxacin)の強力な抗菌効果は動物実験から臨床実験段階に入ったとのことだった。
 日本人に関係するものでは,JICAプロジェクトで,カンボジア,ネパール,イエメン,アフガニスタン,パキスタン,ザンビアなどから発表があった。結核研究所の国際研修40年の世界的意義も報告された。従来あまりなじみの無かったアフガニスタンや東地中海地区などからの報告は,日本人WHO専門家の働きの影響も大きい。大阪や東京からの都市結核対策の報告,臨床部門では,多剤耐性の外科療法や日本式DOTS,MACに関する発表があった。看護部門での日本からの参加は見られなかった。結核病学会等への働きかけにより,日本からの発表をさらに増やしたいと感じた。
 非結核・肺の健康分野では,禁煙,急性呼吸器感染,SARS等に関する討論が目立った。
 また多くの結核研究所研修生(70名は超えるか)との再会も心楽しいものであった。
 総会では任期終了に伴い替わる3名の新理事選挙がなされ,英国のDr.Beltel Squire(新),スウェーデンのDr.Boman(再),筆者(新)の3名が選出された。新理事会では,新会長に前副会長のDr. Azuma El Sony(スーダン,結研研修生),新副会長にDr. Gunnar Boman(スウェーデン),General secretaryにDr.Li Xing Zhang(中国),会計にMr.James de Castel(フランス)が再選された。Dr. Ann Fanning は前会長の資格で残り,前会長だったDr.Bjertvelt(ノルウェー)は退任した。
 世界大会は今後,2004,2005年とパリで行われる予定である。


エナソン教授に秩父宮妃記念結核予防世界賞を手渡す


updated 04/03/17