国内で未承認の抗結核薬について

結核予防会結核研究所対策支援部医学科 伊藤 邦彦


現時点においてわが国で「抗結核薬」ないし「抗酸菌症治療薬」として承認されていないが、国際的にはなんらかの形で結核の治療に用いられている薬剤について、文献調査の結果を以下に掲げる。

A.ニューキノロン剤

表1

 ニューキノロン剤は、リファンピシン登場以来現在に至る約30年以上の間、真に新しい機序による抗結核化学療法剤として登場した唯一の薬剤クラスである。このクラスの薬剤のうち考察に値するのは表1の3剤である。
 sparfloxacin(発売元:大日本製薬)も優れた試験管内抗菌力を示すがほかのニューキノロン剤との交差耐性を有し(下記参照)、また激烈な光線過敏症の副作用があり(薬剤メーカー添付書参照)、長期投薬を行う抗結核薬として適していない。以上の3薬剤は以下の特徴を有している。
  ・臨床的には互いに交差耐性を示す2) 3) 9)
  ・細胞内ならびに組織移行性は良好である
  ・既存の抗結核薬との交差耐性や4) 5)拮抗作用はない6)

1.抗結核作用
 わが国での分離株におけるMIC(最小阻止濃度、菌の増殖を阻止するのに必要な最低薬剤濃度)のデータを表2‐1に示し9)表2‐2に常用量による血中濃度ピーク値の一覧を示す(各薬剤メーカーの添付書による)。容易に到達可能な血中濃度で抗菌作用が得られることがわかる。
 ニューキノロン剤においてもほかの抗結核薬と同じく単剤治療によって耐性化を招き、ほかのニューキノロン剤にも交差耐性を来す2) 3)。OFLX単剤投与の場合、OFLX耐性化が2〜4ヵ月後に出現するとされる3)〜5) 10) 11)。スペインからの報告では、一般診療における広範なニューキノロン剤の使用にもかかわらず初回耐性はまれである。

     表2-1      表2-2     表3

2.臨床試験成績
 2.1 初回治療での使用成績
 これまで発表されているニューキノロン剤を使用した薬剤方式による初回治療患者を対象とした無作為対照試験の結果を表3に示す。
 文献13の報告13)から少なくともOFLXはEBと同等とは言いうるであろうが、文献14の報告14)からはCPFX等の効果はRFPにとって代わるほどのものではないようである。文献15の報告15)からはニューキノロン剤はPZAなどの「殺菌的な」薬剤に替わるものでもないようである。以上からニューキノロン剤は少なくともEBやSMなどの代わりに用いることのできる薬剤ではあるが、RFPやPZAの代わりになりうるほどのものではないことが推測される。
 2.2 難治性薬剤耐性結核での使用経験
 単独療法もしくは準単独療法(既に耐性化している可能性の高い薬剤との併用療法)での菌陰性化率は17.6%〜59.1%と報告されている1)。どの報告も多剤耐性結核の治療において他の薬剤と併用して効果があったと結論している。
 2.3 結核臨床におけるニューキノロン剤の評価と推奨
 ニューキノロン剤は副作用の少ない長期投与の可能な経口剤であるところから、多くのわが国の結核臨床家はEBとほぼ同等という評価をしているようである。しかし初回治療の化学療法剤として用いるべきではなく7)、薬剤耐性結核もしくは副作用発生例に限定して用いられるべきであるというのが専門家の間での一致した意見であろう。
 Isemanの薬剤耐性結核の治療指針によれば16)、ニューキノロン剤はEBに次ぐ選択薬とされており、米国その他先進諸国では薬剤耐性結核の治療において確固とした地位を確立しているものと考えられる。また薬剤耐性結核に対する対策として提唱されているDOTS+(ドッツ・プラス)においても、その必要とする抗結核化学療法中にニューキノロン剤が含まれており17)、その他WHOによる薬剤耐性結核による治療方式に組み入れられている18)。わが国においても厚生省(現厚生労働省)の研究班がまとめた多剤耐性結核診療の指針案19)中に重要な薬剤として登場している。
 以上からニューキノロン剤は薬剤耐性結核の化学療法においては現在必須の薬剤として評価され使用されていると結論する。
 2.4 各国における抗結核薬としての承認状況
 OFLXおよびLVFXの製造発売元である第一製薬、SPFXの発売元である大日本製薬、CPFXの発売元であるバイエルの調べによれば、この4薬剤を含め何らかのニューキノロン剤を抗結核薬として正式に承認している国は、英国を除き米国を含めて現在のところ確認されていない(英国ではCPFXが抗結核薬として認められている)。
 ただし米国ではATS(米国胸部疾患学会)勧告35)で、多剤耐性結核に対しては消極的ながらCPFXとOFLXが推奨されており、その後の政府機関の対策従事者向け文献36) 37)にはこれらのほかLVFX、SPFXも推奨されている。またWHO18)も薬剤耐性結核に対してOFLXとCPFXを推奨している。
 2.5 個々のニューキノロン剤について
 臨床データからはOFLX、LVFX、CPFXの3剤の間には臨床的にはほとんど完全に交差耐性が存在しているものと考えられる。またこれら3薬剤はMICに差はあるとしても常用量を守れば臨床効果の上でもそれほどの差はないものと考えられる。CPFXに対するMICはOFLXやLVFXに比して若干低い分布を示すものの、臨床的効力に差異を来すほどのものではない。しかしCPFXについては、現在日本で唯一このクラスでの注射製剤が存在しており、注射剤のある抗結核薬がINHかアミノグリコシド剤しか存在しない現時点では、意識障害のある結核患者への投与が可能となることが結核臨床家の間で望まれている。副作用の点では同力価であればOFLXよりもLVFXのほうが少ないとされているため20)〜22)、長期投与を要する抗結核化学療法においてはOFLXよりはLVFXのほうが望ましいであろう。

B. リファマイシン誘導体16) 23)

 このクラスの薬剤で現実的に人体への投与経験が蓄積され海外で抗結核薬として承認を受けているのはRifabutin(以下RBT)とRifapentine(以下RPT)である。RBTはその抗菌力においてRifampicin(以下RFP)をしのぐことが期待され、それゆえにRFP耐性菌にも有効であることが期待された薬剤であり、RPTは血中濃度のピーク値が高く半減期が非常に長いためよりインターバルの長い間欠療法に適した薬剤として期待された。

1.野生株に対する抗菌力と薬物動態
表4 文献16) 25)より、各リファマイシンの薬物動態と野生株に対するMIC分布を表4に示す。
 RBTはMICにおいてはRFPに優れるものの最大血中濃度はRFPよりも低く、その臨床的有用性についてはこれらのデータからは結論しがたい。RPTの薬物動態はこのデータを見るかぎり間欠投与に適した薬剤であることが期待される。

2.臨床使用経験
 2.1 RBT
 2.1.1 初回治療
表5-1,-2 RBTはMIC値のみの比較ではRFPよりも良好であるが、初回治療においては南アフリカおよびアルゼンチン27)からの比較試験の報告ではRFPと同等であったとされる(表5‐1、‐2)。
 2.1.2 RFP耐性菌に対する効果
 RFP耐性の菌株のうちRBTに感受性と考えられる菌は文献28の報告28)で36%、文献29の報告29)で27%、文献30の報告30)で31%であった。rpoB遺伝子からみた場合、RFP耐性にもかかわらずRBT感受性となる変異はわずか13%であるとされている31)
 実際にRFP耐性の結核に対してRBTを使用した場合には、それほどの著明な効果は期待しがたいようである12) 16)。文献12の報告12)ではRFP耐性22症例のうちMICが0.5µg/ml以下のものは14%であり、RBTによる長期の菌陰性化が得られたと思われた例はなかったとされる。
 2.1.3 HIV/AIDS症例での有用性
 RFPとRBTの大きな違いはP450系酵素誘導能の違いで、RBTはRFPに比してこの作用が弱いことであろう16)。このためHIV/AIDS合併結核においてプロテアーゼインヒビターやNNRTIの種類を限れば、RBTとの併用が可能とされている。RFPをRBTに代えてプロテアーゼインヒビターやNNRTIを使用してHAARTを行うことの意義を臨床試験で追求したものは見当たらない。
 2.2 RPT23)
 製造元の製薬メーカーが米国FDAに提出した臨床試験の結果23)表6-1に示す。HIV陽性の薬剤感受性の結核患者に維持期にRPT週1回の投与を行いRFP週2回投与群と比較した報告34)表6-2に示す。
表6-1,-2 表6-1では菌陰性化率に差はないものの、再発率はRPT群で有意に高かった。これは初期強化期において、投薬がRPTのみ週2回となっていることによるRPT以外の薬剤服薬への、アドヒアランスが不良であったことに原因があるとされている。
 表6-2ではRPT群では再発率が高く、かつ再発の場合にはRFPに耐性化している可能性が高かったとされる。このことからの研究者たちは、HIV陽性者をこの研究対象から除外することにしたと報告している。

3.結核臨床におけるRBTおよびRPTの評価と推奨
 現時点では多剤耐性結核の治療ガイドラインにおいて、試験的治療以外の設定でのRBTを推奨するものは見当たらない。結核臨床でのRBTの使用の推奨はHIV/AIDS合併結核の治療にプロテアーゼインヒビターやNNRTIとの併用薬として用いることに限定されているようである24) 32) 33)
 RPTの臨床的有用性については現時点では不明確と言わざるをえない16)

4.各国における承認状況
 RBTおよびRPTは米国で承認されており、RPTは中国で使用されているとされる23)。ほかの国における承認状況は不明である。

5.日本におけるRBTおよびRPTの有用性
 以上のレビューからは現在の日本において現実的な有用性を期待しえ、かつ臨床医が積極的に結核臨床の現場での使用を希望するのは、進行したHIV/AIDSにおいてプロテアーゼインヒビターやNNRTIと同時に使用するリファマイシン誘導体としてのRBTではないかと思われる。多剤耐性結核に対するRBTの使用は、現状では研究レベルのものであろう。間欠療法が日本でほとんど行われていない状況では、RPTの有用性も現在の日本においてはほとんどないものを思われ、使用したとしても研究レベルに留まるものと考えられる。


文献

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Updated 02/12/04