平成13年度フィルム評価会報告
12月6・7日/結核研究所


尾形英雄(結核予防会 複十字病院 第一診療部長) 尾形英雄
結核予防会 複十字病院 第一診療部長
(結核予防会胸部検診対策委員会 精度管理部会長)

はじめに

 平成13(2001)年度の結核予防会胸部検診対策委員会精度管理部会フィルム評価会は,12月6・7日の両日,結核研究所講堂で開催された。開会挨拶終了後に胸部検診対策委員会高瀬顧問の発声により,参加者全員で5月に急逝された高知県支部の高島正先生に対し黙祷を捧げた。高島先生には御尊父と併せ親子2代に渡ってこの会を支え,精度管理部会委員としていつも暖かいご助言を頂いてきただけに,誠に残念であった。今回は全国の支部から新人の放射線技師が多く参加されたが,医師の参加が少なかっただけに高島先生の抜けた穴の大きさが特に目立つ結果となった。ともあれ,1985年から始まったフィルム評価会は,結核予防会で撮影されたエックス線写真の品質向上に大きく貢献してきたことは疑いようもない。しかし医師の新規参加が少ないことは,その果たしてきた役割が十分喧伝されてこなかったためかもしれない。今回は,評価会に参加したことのない医師・放射線技師やその他の結核予防会職員に,この会がどのように運営されているか紹介することに重点を置いて報告する。


初日のフィルム評価会の流れ

 評価対象のフィルムは,4月以降に各支部が撮影した間接フィルムと直接フィルム及びCRフィルムの一部である。これを全国から参加した医師14人・放射線技師63人が8班に分かれて評価した。対象フィルムにはエックス線装置・付加フィルタ・増感紙・使用フィルム・現像処理などを記した調査票が添付され,これを見ながら肺野・肺周辺部・縦隔・心陰影部のそれぞれの濃度・コントラストと鮮鋭度・姿勢・キズなどの項目について適・やや不適・不適の審査をして,すべてが適だったA,1〜2個やや不適のあるB,以下C上・C中・C下,そして不適の並ぶDまでの判定を下す。ただし,D評価のひどい胸部写真は幸いこの数年見ていない。

 毎年初日の午前中は執行部から20分ほどの評価方法の解説があった後,間接フィルムの目慣らしを行う。目慣らしとは用意された8本のサンプルフィルムを交替で8班すべてが判定を下すことから始まる。1時間ほどかけて全部の班の判定結果が出たら,執行部で集約して各班の判定結果をオーバーヘッドプロジェクターで投影する。これを参加者全員で見ながら,解説者が壇上から司会をして全体討議の上で会としての判定を下す。これによって自班の評価が他班と比べ甘すぎるか辛すぎるか明らかになる。言ってみれば,目慣らしは測定機器のキャリブレーションに当たる不可欠な作業である。毎年評価会に参加していても,自施設のフィルムばかり見ていると,とかく判定する目が甘くなってしまっている。目慣らしが終わるころに,やっと自分の目が評価会の厳しい目に戻った感じになる。

 これに続く本評価は,対象の間接フィルムを各班に分担して,各班の責任で判定する。1度判定されたフィルムはもう1度他の班で再判定を受けて,午前の部を終了する。昼食後は参加者を2グループに分けて,良い評価を受けたA判定・B判定フィルム,逆に評価の低かったC中やC下のフィルムを判定結果ごとに集めて最終判定を行う。本判定を行った2つの班の審査結果を読み上げながら,そのフィルムを全員で見てフリートークで決めていく。事前に評価した2班の目が全体からみても妥当であったか検証する作業にもなっている。フィルムの評価は濃度測定値を除けば主観に基づくので,できるだけ多くの専門家によって検証を繰り返すことが,安定した精度管理システムを生む鍵となっている。手本となるA・B評価のフィルムは次年度にも展示されて,年次ごとの評価のぶれが生じないようにするアンカーの役目も果たすので,その選定は特に慎重に行われている。間接フィルムの最終評価を午後3時頃には終え,2日目に評価する直接フィルムの目慣らしを済ませてしまう。


13年度の講演会と懇親会

 直接写真の目慣らしが終わると,毎年エックス線検診に関わる講演会が企画されている。講師は通常外部にお願いしていたが,今年は例外的に副部会長の増山医師(第一健康相談所診療部長)が講師を務めた。これは,厚生労働省が答申を求めている結核検診事業の見直しに,増山医師が関わっていること,見直し案が実施されると全国の予防会支部の経営に大きな影響の出ることが確実なことから企画された。

 増山医師の講演は「今後の胸部検診の状況」と演題名は穏やかだが,法律によって毎年行われている学校・事業所の結核検診が大幅に縮小されることが決まるだろうという厳しい内容であった。結核患者の減少・高齢化にともなって,特に若年層の結核検診は患者発見の効率が著しく悪化しているのが現状である。従って39歳以下の会社員・大学生の結核検診は,大学入学時・入社時など節目の検診のみ残す方向で答申されるという。結核検診に経営基盤を依存している結核予防会支部では,数年後の実施に備えて,業務内容の転換を始める必要があると指摘があった。講演終了後に結核研究所食堂で懇親会を開き,各支部職員との親交を暖めて長い1日目を終えた。


評価会2日目の流れ

 午前9時過ぎから,前日行った直接フィルムの目慣らしの結果発表と解説が始まった。昨年A・B評価を得たフィルムを指標に,前日行った各班の評価結果をオーバーヘッドプロジェクターで投影して,1枚ずつ全体討議で判定を下していく。粒状性など一部を除いて直接フィルムの審査項目と間接フィルムの審査項目は共通している。しかし連続した1巻のフィルム全体を評価する間接フィルムは,住民検診のフィルムを提出した支部は不利となり,職場検診を提出した支部は有利になる傾向がある。なぜなら住民検診受検者は老人が多く,被写体の姿勢が悪くかつ不均一なのに対し,職場検診受検者は被写体がそろうからである。その結果,間接フィルムより被写体が1人の直接フィルムの方が,より技師の技量の差が出やすいと思うのは私だけであろうか。

 目慣らしが済んだところで,直接フィルムとCRフィルムの本評価を始める。本評価は間接フィルムと同様の仕組みで,2つの班が別々に判定する。次いで参加者を二分してA判定・B判定・C中判定などのフィルムをまとめてフリートークで最終判定を下す。2日目は午前中には終了し,また1年後の再会を約して解散した。


13年度の評価結果報告と私見

 今回のフィルム評価会の結果を表1に示す。間接フィルムと直接フィルムの判定の分布はほぼ同一であった。一方CR画像にC中評価はなく,直接フィルムより総じて評価が高くA評価も多い。ただ個人的印象でいうと,CRは明らかな欠点が少ないためかよい評価を得やすいように思う。しかし同じA評価のCRと直接フィルムを見並べると,どうも前者は見劣りしてしまう。CRは情報量が少ないのか,何か平面的で物足りないのに対し,A評価の直接フィルムは何度見てもほれぼれしてしまう芸術写真の趣がある。

表1 間接・直接・CRフィルムの評価成績(平成13年度)

 直接フィルムについて年ごとの評価結果を表2に示す。近年,評価の低いC中・C下のフィルムは減っているが,評価の高いA評価はほとんど増加せず,やや劣るB評価のフィルムが増えている。この現象は何を物語っているのだろうか。全くの私見だが,撮影機器などのハード面の向上はB評価を増加させるが,A評価を得るようなよい写真を撮るには結局は技師の工夫によるところが多く,不断の努力を要するからではないか。フィルム評価会は,撮った写真を通してその努力を正当に評価できる会でありたいと思う。

表2 直接フィルム成績の年次変化


Updated02/10/18