CONTENTS
 1 どう変わるのか?21世紀の結核対策!
 2 結核対策評価緊急検討会議 [医師編]
 3 結核対策評価緊急検討会議 [保健師編]
 4 第60回日本公衆衛生学会総会自由集会
 5 全国DOTS推進連絡会議in横浜
 6 結核研究所活動報告




どう変わるのか?21世紀の結核対策!

結核研究所 所長  森 亨

結核対策見直しの問題点とは

 2001年7月に結核対策の抜本的な見直しの諮問が厚生科学審議会(感染症分科会結核部会)になされ、作業部会での検討と並行して、結核部会でほぼ毎月のように審議が行われている。審議そのものは公開されているが、その経過から、特に大きな問題であると私が感じている改訂の焦点・論点は、以下のようなところである。

1.より合理的な対策の実現
 現行の健康診断や予防接種、患者管理にみられる非効率、治療内容(治療方式や治療・入院期間など)の不合理が起こらないような対策体系を策定すること。従来もその方向を追求して、随時政省令の改訂などで対応してきたことではあるが(健康診断や予防接種の対象年齢など)、今後はそれが徹底するような仕組みにできないか。特に治療のEBM(証拠に基づく医療)原則の遵守は現行のような診査の制度でいいのか、それともなにかより優れた方式はあるのか。

2.人権の尊重
 患者の人権(入院や従業停止の強制、プライバシー関連)と同時に周囲の人々、つまり感染を受ける側の権利の尊重(患者に関する上記の措置における実効性の確保)である。これはさらに接触者検診への協力・応諾といった点にもかかわってくる。これは特に現行結核予防法と感染症新法との対比において、結核予防法で欠如していた点である。同時にこのような公権力の行使が正当化されるためには、それ以前の十分なサービスや指導が前提とされるべきであり、それらを具体的に用意しなければならない。

3.地域独自の対策計画の立案実施
 行政における地方分権化の流れと結核の地域格差(主として疫学的な格差、一部には対策にかかる資源の格差)の拡大に対応するために、都道府県・政令指定都市のレベルで地域に独自の対策が行われるようにすべきではないか。例えばハイリスク集団に対する健康診断について、国としては「県市が必要に応じて行う」ことだけを規定し、その実施方法は自治体の裁量に委ねるなど。

4.結核対策における公的責任の範囲と方法
 上記の全項目に多かれ少なかれ関係するが、特に患者管理や治療に関して具体的な問題を論じるときに浮上する問題である。例えば、治療に対する医療費公費負担に関して、感染性でない患者の治療も対象とするのか、また患者管理は医療費(丸め方式ということもあり得る)の中に患者指導(場合によってはDOTS)として含ませて、保健所は関与しなくていいのではないかなど。

具体的方策は2004年に決定

 以上はもちろん私見であるが、2002年3月までにはこれらについて審議会としての見解をできるだけ収束し、中間答申としてまとめ、今後の具体的な対策内容の検討の原則とすることになっている。
 同時に、より具体的な方策については、このような大枠が固まった後に、2004年4月までに決定されることになるので、そのときにはまた改めて関係者の積極的な討論をお願いしたい。






結核対策評価緊急検討会議 [医師編]
専門家の意見を集約し、今後の結核対策の方向性を検討

 2001年6月16日、17日の両日、日本の結核対策の今後のあるべき枠組みを自由に議論しようという会議が、結核研究所で開催された。これは厚生科学研究補助金新興・再興感染症研究事業「再興感染症としての結核対策のあり方に関する研究」(主任研究者:森亨)と財団法人結核予防会結核研究所が主催し、結核研究所研究員および結核研究所結核対策指導者養成研修を修了した全国各地の結核対策専門家に参加を呼びかけたもので、50名近い参加を得た。以下はその概要報告である。

会議の概要

 まず始めに感染症新法との比較からみた現行の結核予防法の検討が報告され、特に結核予防法に欠けている視点として、結核患者本人ならびに周囲被曝露者の両者の人権への配慮が挙げられた。次に国際的視野からみた日本の結核対策として「国際合同レビュー」(結核対策推進会議新報No.1、p2〜3参照)に関する報告がなされた後、全体での討議に入った。
 討議は大きく「発病予防」「医療」「患者発見」「管理」の4つの大テーマに分類され、さらにそれぞれが細分化された小テーマを含む形式で進められた。初日には小テーマごとに担当者から現状の確認と問題点および今後のあるべき姿についての発表がなされた後、意見交換が行われた。これを基に、翌日は大テーマごとにまとめが行われ、全体的な討議が行われた。
 紙面の都合上、以下各会議の報告書を基にして、大テーマごとの討議内容を簡潔に紹介する。

発病予防に関する討議

 BCGおよび化学予防について討議がなされ、問題点としてBCG再接種の是非、感染診断の困難に起因する誤った化学予防の適応など、現状の問題点が挙げられた。
 また、乳幼児のBCG初回接種継続の必要性が確認され、化学予防についても年齢制限を廃止し、使用薬剤や投薬期間に関しても柔軟化し、今後さらに積極的に推し進めていくべきことなどが提案された。

医療に関する討議

 「入院治療」「命令入所制度」「適正医療」「治療管理・保健指導」「公費負担制度・診査会」「管理検診」の各テーマについて討議がなされた。
 問題点として、入院治療適応の曖昧さと入院強制力の欠如、標準治療の普及が悪く診査会機能の不徹底とあいまって不必要な長期治療が多々みられること、指定医療機関の質の格差およびその認定要件が皆無に等しいこと、外来治療における公費負担医療範囲の不十分さ(副作用点検や新しい菌検査法などが対象にならない)、現行医療基準の妥当性(特にINH初回耐性が5%程度ある状況下での標準治療としてのINH+RFPのレジメンの妥当性)、再治療や薬剤耐性結核の治療指針が存在していないこと、結核診査会のあり方(医師だけで構成され、人権への配慮が不十分になるおそれがあること、自己診査になってしまっている例が多くみられることなど)、再発率が低下した現状における管理検診の費用対効率の低下などが挙げられた。その上で、公費負担制度の維持と拡充、結核診査協議会機能の強化と場合によっては広域化、入院治療に関する法的強制力、規則的治療確保のための保健所機能の確立、研修等による医療機関の質的向上などについて、その必要性が討議された。
 また、管理検診については原則廃止とし、再発のリスクが大きい治療終了者に対しては、ハイリスク者を対象とした結核検診と一体化していく案などが出された。

患者発見に関する討議

 「定期検診」「接触者検診」「ハイリスク検診」「学校検診」の各テーマについて討議された。
 全体として定期検診の結核患者発見効率がかなり悪いこと、その半面、住居不定者や外国人語学学校などの特定ハイリスクグループではかなり高い発見率が期待されること、接触者検診の実施状況にばらつきが大きいことが挙げられた。よって無差別的な定期健康診断を廃止し、ハイリスク郡への選択的な実施方法に改められるべきこと、接触者検診の実施とその標準的方法のさらなる浸透の必要性、学校検診の簡略化が討議された。

管理に関する討議

 「登録制度」「発生動向調査」「DOTS・大都市問題」「保健所機能」「国と自治体の機能」の各テーマについて討議された。
 発生届け提出義務の強化、薬剤耐性やRFLPパターンなど菌株情報の蓄積なども含めた発生動向調査における情報システムの向上、および患者プライバシーへの配慮の必要性、地域格差への対応と県市レベルでの結核対策強化等の必要性について討議がなされた。
 また、結核対策における今後の保健所機能として、@結核対策の評価、A政策づくり、B地域における結核対策の質の保証、C健康危機管理(集団感染・院内感染対策)、D患者管理(支援)、E地域におけるDOTS医療ネットワークの構築・調整が挙げられた。

今後の展望

 上記の会議内容は結核対策専門家の意見の集約であり、今後の日本の結核対策のあるべき方向性を打ち出したものと考えてよいだろう。
 現在この討議内容を土台として、厚生科学審議会感染症分科会結核部会(部会長:森亨)で結核対策の見直しの検討が進行中である。
 今後の日本の結核対策をより有効な効率のよいものとする上で、今回の結核対策評価緊急検討会議が大いに役立ってくれるものと考えている。

(対策支援部医学科長 伊藤邦彦)

Column

結核対策評価緊急検討会議に出席して
山形県村山保健所 所長 阿彦忠之

 2日間の会議は、まさに結核漬けであった。1992年に始まった結核対策指導者養成研修の歴代修了生と結核研究所の先生方による緊急合同合宿ともいえるだろう。
 会議では、わが国の結核対策の評価と今後のあるべき姿の提言づくりを目的に、ほぼ全員が独自の資料提供や発表を行い討論が進められた。臨床面に弱い私にとっては、最近の結核医療を取り巻く諸課題を理解する絶好の機会であった。また、伝統的な考え方や法的制度の枠組みにとらわれない自由な発想、および最新の科学的根拠に基づく批判的なレビューを数多く聞く中で、法改正の必要性を痛感した次第である。
 2日目は、発病予防や医療など4つの分野ごとにレポーターが初日の発表内容の要約を行い、提言づくりに関する討論があった。私もレポーターのひとりとして指名され、懇親会の酔いも醒めやらぬ早朝から、研究所の寮で要約の準備をしたことが印象に残っている。最近は講演形式の研修会に参加しても、1週間後には内容の大半を忘れてしまう年齢?になったが、この会議では、討論内容を頭の中に(酒粕入りの)奈良漬けの如く、しっかり漬け込むことができた。






結核対策評価緊急検討会議 [保健師編]
保健婦の視点で新しい結核対策の提言

 2001年7月28日、29日の両日、結核研究所に結核対策最前線で活躍する保健師の有志が集い、日本の結核対策の現状分析と今後のあるべき姿について、建設的に自由に論議する会議が開催された。新しい結核対策について、保健師の視点で具体的提言がなされたので報告する。

結核緊急事態宣言以後の対策の動向

 会議を始めるにあたって、結核研究所の森亨所長より「結核緊急事態宣言(1999年7月26日)以後の対策の動向」について以下の説明がなされた。@21世紀に向けての結核対策(公衆衛生審議会意見書)(1999年6月30日)、A結核緊急対策検討班報告(2000年7月)、B結核緊急実態調査(2000年10〜12月)、C結核対策合同レビュー(2001年1月15日〜20日)、D結核対策評価緊急会議・医師編(2001年6月16・17日)。そして、今回の保健師編の開催に至った。

参加メンバーと検討内容

 結核研究所対策支援部と全国保健婦指導者(結核研究所長期研修修了者および県結核担当保健婦等)14名で開催された。検討内容は医師編と同じ要領で、結核予防法と感染症新法の比較、国際合同レビューの解説の後、「発病予防」「医療」「患者発見」「患者管理」「教育」に関する保健婦活動の5項目に分けて討論は進められた。

保健師からの提言

1.発病予防に関するあり方
1)BCG接種は乳幼児の髄膜炎を予防できることから、初回接種実施は好ましい。接種の時期は生後3か月から6か月の間とし、問診票で家族歴・接触歴などリスクの確認を強化すべきである。また、乳児がBCG接種を受ける機会を確保する必要がある。
 接種技術の向上のためには、研修、看護職の導入を考慮した専門家チームの編成、接種ロボットの開発なども検討する必要がある。学童期の再接種は廃止の方向で検討すべきであり、BCG接種の評価は基準を明確にし、例えば1歳6か月検診時に針痕数調査を行うことなどを検討する必要がある。
2)化学予防は本人の負担も大きく、6か月間の服薬管理の困難さ、多剤耐性の問題および内服しても発病することがある場合を考慮し、予防内服対象者の選定を厳選する必要がある。加えて、予防内服者の年齢制限は廃止すべきである。

2.医療に関するあり方
1)長期入院や治療期間の格差などを予防するために、行政による入院期間の適正化の指導を強化する必要がある。また「命令入所」という言葉は不適切であり、適当な言葉を検討する必要がある。適正医療を普及徹底させるためには、結核診査協議会の機能強化および責任と権限について見直しの検討が必要である。
2)治療管理に必要な情報、特に菌所見の迅速な把握と関係者間の情報の共有化が必要であり、菌検査情報が検査室からオンラインで得られるようなシステム化を検討する必要がある。非結核性抗酸菌患者に関する管理基準を検討する必要がある。
3)結核診査協議会の構成メンバーについては、結核専門医に加えて看護、福祉、人権問題等の専門家職種の参加を検討する必要がある。
4)管理検診は標準治療によるDOTS事業治療修了者には不要である。治療中断者や標準治療に適応しない患者には管理検診を強化すべきである。

3.患者発見のあり方
 定期外健康診断は保健所の役割であり、対象者の範囲の設定と方針等について、保健所長の責任と権限を明確に位置づける必要がある。また、情報収集や検診受診勧奨を行う保健師の責任と権限についても明確にする必要がある。

4.患者管理のあり方
1)患者登録制度はオンラインによる迅速な登録制度を検討し、接触者調査や定期外健康診断実施にあたっての保健所の権限と関係者の協力の義務を強化し、罰則は感染症並みすべきである。
2)医療機関には迅速な確定診断を実施して保健所に届け出ることを義務づけ、確定診断の費用は保険適用などを検討する必要がある。
3)患者登録とともに患者手帳などを発行し、結核患者の治療への協力を義務づけることの検討が必要である。
4)発生動向調査に関して、入力担当者の格差を予防するために入力チェック機能が必要である。また、本庁に患者管理の専門家の配置を義務づけ、必要なデータの還元を行うようにする。
5)DOTS事業を推進し、患者の治療成功率向上のための責任者は保健所保健師であることを法的に位置づけ、権限と責任についても検討する必要がある。
6)保健所における結核の治療(DOTS事業)を検討する必要がある。

5.教育のあり方
1)看護大学における結核保健指導教育の「学習指導要領」を作成し、保健師国家試験出題基準に明記し、結核対策の教育を義務づけることを検討する必要がある。
2)卒後教育制度を確立し、結核専門保健師の資格制度を法的に位置づけることを検討する必要がある(大学院レベルで結核専門保健師を養成することが好ましい)。
3)結核担当保健師の再教育について、結核研究所での定期的な研修を義務づけ、専門的技術の質の確保を図るべきである。

(対策支援部長 山下武子)

Column

結核対策評価緊急検討会議に参加して
高知県健康福祉部健康政策課感染症班 楠瀬美枝

 結核対策評価緊急検討会議のお知らせを思いがけずいただき、「私など、いいのかな?」と心配しつつ、会議に参加させていただいた。
 医師の検討会があったことは、高知市保健所の豊田医師からも伺っていたので、国の結核対策についての検討が、いよいよ具体的になっているのだと感じていた。
 緊急検討会議の目的は、結核対策の現状を出し合い、分析と今後のあるべき姿を自由に検討し、具体的な提言をするというものであった。テーマごとに分担を決め、参加者それぞれがレポーターになり報告を行うという形で進行した。どのテーマにも重要な課題があり、発病予防、患者発見、患者管理、医療や医療機関との連携などにおける保健師活動の現状や問題点、役割について熱心に検討された。
 それぞれの地域で、結核対策の第一線でがんばっている保健師諸姉の熱意とパワーに圧倒されると同時に、とても頼もしく感じた。「結核を治す」ことにおいて、医療とともに保健所や保健師が果たすべき責任を再認識し、たいへん勉強になった。
 また、日本の結核対策に大きな役割を果たした「結核予防法」を、今の社会に即したより効果的な結核対策に生かしたいという、熱い想いも強く感じた2日間であった。






第60回 日本公衆衛生学会総会自由集会
「結核対策:院内DOTSから保健所への展開」
2001年10月31日、香川県社会福祉総合センター

 結核研究所対策支援部の主催による自由集会に120名以上が参加。全国の院内DOTSの実施状況、羽曳野病院や複十字病院における院内DOTSの取り組み、川崎市や和歌山県における院内DOTSから外来治療への展開が紹介され、DOTSが患者本位の治療支援の究極的方法であることが再確認された。

院内DOTSの現状−アンケート調査から−

 香川県で開催された第60回日本公衆衛生学会総会の初日の夜に行われた自由集会では、まず始めに、結核研究所保健看護学科より院内DOTS実施状況アンケートの集計結果(回答率32%)が報告された。
 回答した施設のうち結核病棟のある174施設についてみると、86%の施設が院内DOTSを行っており、その方法は看護師による配薬が大半(86%)を占めた。保健所との連携は、定期的な会議と個々の連絡を合わせて45%の施設で行っていた。

DOTS事業の紹介

 結核予防会複十字病院の院内DOTSは、入院患者に対して病気理解の援助と入院生活の指導を行い、服薬確認を行っている。退院後は患者面会連絡表や退院時サマリーの送付、定期的な会議等により保健所と連携して患者支援を進めている。
 川崎市の医療機関と区保健所の取り組みでは、野宿生活者と簡易宿泊所の宿泊者を対象として、野宿者健診やDOTS事業を行っている。入院DOTSは市立井田病院を主体として行っており、外来DOTSは結核予防会川崎健康相談所と区保健所が連携して行っている。
 和歌山県の御坊保健所より、高齢の結核患者に対するDOTSが報告された。結核患者の多くが高齢者で、退院後は在宅の治療になるような地域では、病院と保健所の連携のほかに、訪問看護ステーションなど地域資源の活用の必要性が示された。
 最後に大阪市より、羽曳野病院における療養支援の歴史と服薬手帳等を活用した現在のDOTSの方法が紹介され、DOTSカンファレンスを通じた医療機関と保健所の連携の重要性が示された。

DOTS事業は究極の患者支援活動

 まとめとして山形県村山保健所の阿彦忠之先生より講評があり、DOTSが患者本位の治療支援の究極的方法であることを再確認するとともに、今後の課題が以下のように示された。
@DOTSが患者の治療成功率を向上させる重要な戦略であることを、政策決定者に認識させる方法の開発を進める。
A保健所の再編・統廃合が進む中で、結核担当者のマンパワーは限られていくので、現行の結核対策業務に優先順位をつけ、他のどの事業を見直すべきかの検討を進める。
B保健所の公的責任という視点に立ち、DOTSが限られた地域におけるモデル的試行事業から、全国に広がる普遍的事業に展開する必要性を検討する。
C新しい人的資源等の開発を進める。

(対策支援部企画科長 星野斎之)






全国DOTS推進連絡会議in横浜
「結核治療の基本はDOTS!! 広げようDOTS治療と服薬支援」
2001年11月30日、横浜市健康福祉総合センター

 2000年7月、都市部の結核蔓延対策として日本版21世紀型DOTS戦略が発表された。その推進体制の一環として、横浜市、厚生労働省、結核研究所共催で開催された本会議に、全国から300人を上回る関係者が参加。DOTS事業を積極的に進めている横浜市の取り組みを中心に、講演、パネルディスカッションが行われた。

横浜市におけるDOTSの現状

 様々な結核問題を抱える寿地区の患者を対象とした横浜市DOTS事業の大きな特徴は、医療・保健に福祉を巻き込んだ連携体制にある。
 午前中の講演で、国立療養所南横浜病院婦長の石川節子氏は、院内DOTS導入による業務への大きな負担はなく、むしろDOTSを行うことで患者と向き合う時間が増え、副作用の早期発見が可能になり、看護師自身が結核治療における自分の役割を再認識し、計画的な患者教育が可能になったと報告した。
 寿診療所長の佐伯輝子氏は、DOTS事業を成功に導くには「自分で治す」という患者の強い意欲が必要であり、医師をはじめ治療に携わる者は一つになって立ち向かうことが重要と述べた。また、南横浜病院の医師・看護師による週1回の寿地区への診療・看護支援、DOTS導入カンファレンスへの参加等を通じ、入院DOTSから退院後DOTSへのバトンタッチがスムーズに行われている現状が紹介された。

DOTSの現状評価と今後の課題

 午後からはパネルディスカッション「DOTSの実践とその評価」を開催。神奈川県立循環器呼吸器病センター婦長の酒井恵子氏は、院内DOTSを推進する条件として、DOTS導入の目標に向かって病院が一体となって取り組むことの重要性を指摘。DOTS導入当初、スタッフからDOTSに対する疑問が多く出されたが、南横浜病院や寿診療所の見学および横浜市衛生局から担当者を迎えての勉強会、DOTSカンファレンスへの参加を通してスタッフ間の連帯感が生まれ、チームとしての活性化につながったと報告した。
 慶応大学病院医師の長谷川直樹氏は、看護師を中心とした国立療養所南横浜病院の院内DOTSのシステムを構築した経験から、確実な治療のためには「発見する場」「治療する場」「それを管理する行政」の連携が必須であると述べた。さらに、患者が安心して治療を受けるためには生活の安定をはかることが重要と考えた横浜市感染症・難病対策課の新堀嘉代子氏は、DOTS事業の3本目の柱に福祉を据え、医療・保健・福祉の職員が情報を共有する場としてDOTSカンファレンスを重要項目として位置づけた。
 大阪市は各保健センターの医師・保健師・事務担当によるコホート検討会を開催し、DOTSを含めた患者管理全体の評価を行っている。大阪市保健所の撫井賀代氏は、コホート検討会の導入によって、個々の保健師に任されていた患者管理が保健センターとして評価できるようになり、さらに定期的に継続した評価が可能になったことをメリットとして挙げた。今後は地域の医療機関に参加してもらうことによって、地域の結核対策を考えていく連携の場としての機能も期待できると述べた。

連携システムの構築をめざして

 講評で、「院内DOTSは院内だけで終わってよいのか」「一握りの特殊な人たちだけが対象でよいのか」と会場に問いかけた森亨所長は、入院当初から医療機関と行政が連携するシステムの構築と、すべての結核患者へのユニバーサルDOTSの可能性を示唆。さらに、治療成績の向上には社会経済弱者に対する早期発見は不可欠であると述べ、2002年の世界結核デーの統一標語である「Stop TB, Fight Poverty(結核をくい止めよう。貧困と闘おう)」を紹介して、本会議は幕を閉じた。

(対策支援部保健看護学科長 小林典子)






        

Information

◎研修日程(於:結核研究所)

医師 医師短期研修(定員30名)
胸部X線読影研修(定員30名)
6月19日〜28日
11月12日〜15日
放射線 夏期研修(定員60名)
短期8日間コース(定員30名)
結核対策と被曝(定員50名)
8月21日〜23日
11月6日〜15日
12月10日〜13日
保健婦 夏期研修(定員150名)
対策8日間コース(定員60名)
基礎4日間コース(定員60名)
7月31日〜8月2日
7月10日〜19日、9月25日〜10月4日
10月15日〜18日、11月26日〜29日
*上記以外にもまだ研修がございます。 詳細は研修案内へ。  
       

◎結核予防技術者地区別講習会 (詳細へリンク)

岐阜県:6月6日、7日 / 香川県:6月13日、14日
栃木県:7月4日、5日 / 北海道:7月9日、10日
滋賀県:7月11日、12日 / 佐賀県:7月18日、19日
宮城県:7月24日、25日