小児結核ゼロを目指して
〜金沢市保健所の取り組み〜

金沢市保健所 保健推進課 浅香久美子 



はじめに

 小児結核根絶は結核対策の重要な目標の1つである。金沢市では,小児結核対策としてBCG接種状況調査と未接種者への接種勧奨事業を実施したので,小児結核の現状とあわせて報告する。

金沢市の小児結核の現状

 金沢市は人口456,787人(平成13年1月1日現在),12年の新登録結核患者数は108人,罹患率は人口10万対23.7(全国31.0)の中核市である。
 平成6年から12年までの15歳以下の小児結核の発生状況は表1のとおりで,結核性髄膜炎などの重症結核の発生はないものの,ポツリポツリとほぼ毎年発生している。このうち,肺結核と肺門リンパ節結核患者の概要を表2に示す。症例1は5カ月前から咳,発熱があり,気管支炎とのことで通院していたが,別居の父親が結核と分かり,児も結核と診断された。生後3カ月時にBCG接種を受けており,BCG針痕も18個あって,BCG未接種ならば重篤な状態に陥っていたのではないかと考えられた。





 症例2は発熱が続き,入院精査中に父親が結核と診断された。症例3は祖母が結核で死亡した後の家族検診で発見された。症例4,5は兄弟で,症例4の発見後に別居の父親が感染源と分かった。
 小児結核の感染源は家族が圧倒的に多い。少ない症例ではあるが,小児結核予防のためには,大人の結核を早く発見し,確実に治療することが何より大切であることを改めて実感した。また,家族検診を徹底させること,その際,同居の家族だけでなく,別れて住み時々会う親しい家族にも注意すること,さらに早期のBCG接種の重要性など,基本的なことを再確認した。

BCG接種状況調査と接種勧奨事業

 金沢市では,乳幼児のBCG接種は3福祉保健センターで3カ月児健康診査にあわせて実施している。ただし,春,秋のポリオの予防接種と重なる時は,ポリオ予防接種を優先し,後日,日を設けて実施している。当市は転入転出が多く,正確な接種率を出すことは難しいが,BCG接種総数は3カ月児健診対象者数にほぼ匹敵し,その94%前後が1歳までに接種を受けている(表3)。BCG接種率は全体としては低くはないが,未接種者に結核が発生したこと,また,乳幼児期早期から保育園に入園する児が増え,自然陽転した場合に,感染源として保育園も考慮しなければならない事例が出てきたことなどから,12年度に1歳児のBCG接種状況調査と未接種者に対する接種勧奨事業を実施した。



 毎月,満1歳になった児でBCG未接種者(転入等で接種状況不明者を含む)に対し,接種状況及び未接種理由を尋ねるアンケート調査と接種勧奨を文書で行った。また,保護者への結核に対する啓発文書「家族の結核に注意!」を同封し,定期健診に加え,症状が続く時の受診を呼びかけた。
 12年度のBCG接種状況は,1歳6カ月を超える接種者の割合が少なくなり,勧奨により接種時期が少し早まったと考えられたが,全体では接種率は数字上,前年度よりやや低い結果であった(表3)。
 また,今回の調査の対象となった児のツ反検査において陽性者はいなかったが,乳幼児の検査で頭を悩ますのは陽性者への対応である。真の陽性なのか,非特異的反応いわゆる偽の陽性なのか,感染源追求はどこまでするかなど判断が難しいこともある。
 図1に9年度から12年度までのツ反検査の年齢別陽性率を示した。初回,再検査とも1歳を超えると明らかに高くなっている。
 今回1歳児へのBCG接種勧奨を実施したが,重症化防止の目的及び紛らわしい陽性者を少なくするためにも,できるだけ1歳,できれば生後6カ月までに接種することが望ましい。調査では1歳までに接種できなかった児はポリオ予防接種のために3カ月児健診でBCGが実施されなかった6,12,1月生まれが多かった。また,接種が遅れた理由は,病気・体調,多忙・忘れ,転入などとなっており,ルーチン業務である3カ月児健診での指導をさらに大切にし,また,転入時に効果的な情報提供ができるよう取り組みたい。

BCGの精度管理

 BCG接種において接種技術も重要である。金沢市では教育委員会の協力を得て,11年度から3年間,小中学校でのツ反検査及びBCG接種調査事業を実施している。小学校1年生のツ反検査結果は,乳幼児期のBCGの技術評価でもある。12年度の発赤径平均値は10.1mm,陽性率は55.6%であり,また,全国の陽性率(11年度40.5%:厚生労働省地域保健事業報告)等から当市の接種技術はある程度評価されると考えている。今後も数年ごとに小学校でのツ反検査結果の調査を実施していきたい。

終わりに

 幸いにも,12年度は小児結核の発生はなかったが,産婦の結核発病や,乳児がいる家庭での排菌患者の発生などの事例もあり,油断できない。小児の結核の感染源は大人であり,小児結核対策は地域の結核対策そのものにほかならない。結核緊急事態宣言以後,地域の結核への関心は高まったが,さらに努力が必要と考えている。
 また,小児結核を経験したことのない小児科医も多い。結核が少なくなった今だからこそ,地域の先生方に結核に関する情報をタイムリーに提供していきたい。


Updated02/03/01