CONTENTS
 1 日本の新しい結核対策を求めて
 2 日本の結核対策の分析・評価
 3 第6回 国際結核セミナー
 4 平成12年度 全国結核対策推進会議
 5 結核緊急実態調査結果について
 6 究極の目標は結核の根絶




日本の新しい結核対策を求めて

例えば保健所の役割はどうなる?

結核研究所 所長 森  亨

緊急事態宣言から実態調査まで
 1999年7月26日、当時の厚生大臣が「結核緊急事態宣言」を発令し、関係機関や国民一般に結核問題に対する注意を喚起した。その後、これに呼応する一連の動きがあったが、そのひとつの締めくくりが2000年10月〜12月に実施された国の結核緊急実態調査であった。これは詳細な登録情報の収集を中心に、結核死亡の状況やツベルクリン反応検査・BCG接種について、ルーチンには得られない結核患者や対策の実態を詳細に観察したものである。この調査の結果はここ数年の逆転上昇にみられる日本の結核の不気味な動きを対策の側から明らかにするものとなった。主な所見をみると、@結核患者の届け出がかなり漏れている可能性がある、A標準外治療(だらだら治療・入院、規定外薬剤方式)がかなりみられる、B化学予防は適用基準に合わない者が多い、C治療中断患者には社会経済弱者が多い、等々。
 これらは以前からも断片的に指摘されてきたが、系統的な調査で確認された意義は大きいといえる。

国際的な視点からも厳しい評価が
 調査の分析と平行して2001年1月に厚生労働省厚生科学研究事業の一部として国際合同レビューが行われた。これはWHOが以前から行っているある国の対策の評価・改善のための系統的な過程にならったもので、米国、ドイツ、韓国、WHOから招いた専門家に日本からの2名(結核研究所石川副所長と筆者)を加えたレビューアーが、日本の専門家から結核対策の様々な分野についての現状報告を受け、質疑・検討を行った。また、関連施設(保健所、病院・診療所等)の現場を視察した。このようにして6日間で日本の結核について好意的ながら辛口の報告がまとめられた。結論的には、日本は戦後の結核対策に目覚ましい成果を収めたが、近年の対策の状況は世界的標準からあまりにも外れすぎてはいないかというものであった。予想通りといえないこともないが、文書として示されると、考えさせられるところは大きい。 

今こそ抜本的な対策見直しを
 疫学的な結核問題と社会的な注目の高まり、対策への批判などからみて、いよいよ日本の結核対策が永年の滞貨を一掃する時期にきたといえる。その原則はもちろんEvidence-Based Health Careであり、社会正義である。実際にはかなりのスクラップアンドビルドとなり、それなりの痛みを伴うであろう。いずれにせよ、対策への公的責任を要所要所で明らかにしなければならない。実は外国人レビューアーの一人から「日本では患者の治療に責任を持つのは政府なのか、患者や主治医だけなのか」と問いつめられ、即座に返答ができないことがあった。
 予防接種や健康診断の効果の限界が明らかになりつつある現在、治療の重要性はますます大きくなっている。その意味で確実な治療への公的責任をどのように明らかにするかは、あらたな対策のなかの焦点となるであろう。特に保健所にどのような役割を果たしてもらうのか、これは地域保健における保健所の存在意義をも問うことになると思う。近い将来、最善の新結核対策計画が確立されるよう、全国の関係諸氏がここしばらくこの動きに厳しい注意を向けられることを願いたい。





日本の結核対策の分析・評価

WHOなど世界の結核対策専門家が来日

 1月15〜20日の6日間、海外から招いた結核の専門家を中心に国際合同レビューチームが編成され、日本の結核対策にかかわる様々な分野の専門家の支援を得て、日本の結核対策の分析・評価が行われた。日本の結核対策の歴史、保健医療基盤、結核の疫学的分析や対策の体系、患者発見など個々の戦術と活動などが詳細に分析され、それらの結果をもとに、今後の日本における結核対策の戦略と方向性が提言された。

タイムリーな合同レビューDr. Jacob Kumaresan
 合同レビュー(Joint Review)を一言で言えば、「国内外の結核の専門家により、現行の対策の現状分析を行い、必要な改善策を探る」となるだろう。もともとは、多くの開発途上国にDOTS戦略を導入するために、世界保健機関(WHO)によって積極的に実施されてきた。合同レビューを行い、現状分析をもとにそれぞれの対策の改善点を示し、さらにその改善のためにDOTS戦略が有用であるという提言をそれぞれの国で行い、売り込んでいった。しかし、これまで日本のような先進工業国で合同レビューを行った例はないが、結核罹患数が逆転上昇に転じ、緊急事態宣言が出された現在の日本で実施されることは、非常にタイムリーであり、意義深い。

世界の錚々Dr. Lee B. Reichmanたるメンバーが参加
 海外からのメンバーは、@現在最も効果的な結核対策と言われるDOTS戦略を推奨するWHOのDr. Jacob Kumaresan、A1980年代後半の結核の逆転上昇とそれに引き続く強力な対策の導入とそれによる再減少を経験した米国のDr. Lee B. Reichman、B日本と医療システムが似ており、今後日本でも問題となるであろう移民の結核とヨーロッパの結核対策ネットワーク構築に尽力してきたドイツのDr. Michael Forssbohm、そしてC高い治癒率を達成し、薬剤耐性頻度を減少させることに成功した韓国のDr. Young Pyo Hongの4名であった。日本からは、結核研究所の森所長と石川副所長が合同レビューチームに参加した。

結核対策の現状を検証
 2001年1月15日から20日までの6日間、東京都清瀬市の結核研究所において、「再興感染症としての結核対策確立のための研究」班(主任研究者:森亨)、結核研究所、そして国内の大学ならびに医学研究機関の研究者と合同レビューチームのメンバーが、日本における結核の疫学、疾病対策と結核対策に関連する政策、そして日本の結核の現状に影響する主な要因について詳細な検討を行い、勧告を含む報告書を取りまとめた。
 前半の1月15日と16日の2日間(第1、2日目)は、厚生労働省健康局結核感染症課、中谷比呂樹課長をはじめとする日本側からの、日本の結核対策についての資料提供と発表が行われた。一部の資料については、事前に海外の専門家に送付され、1週間という短期間で合同レビューが効率的に実施できるように配慮された。
 発表・検討された分野は、「日本の結核対策」(中谷比呂樹)、「保健システム」(石川信克)、「結核対策とその歴史」(森亨)、「サーベイランス」(大森正子)、「患者発見」(吉山崇)、「治療」(佐々木結花、山岸文雄)、「患者管理とコホート分析」(山下武子)、「薬剤耐性結核」(和田雅子)、「予防」(森亨)、「都市の結核」(成田友代、高鳥毛敏雄)であった。そして、それらの報告をもとに、作成する報告書の枠組みが検討された。
 1月17日(第3日目)は、2チームに分かれて、結核対策に関係する近隣の病院、保健所、Dr. Michael Forssbohm医院を訪問し、職員や患者への面接が実施され、対策の現場からの情報収集が行われた。
 1月18日と19日(第4、5日目)は、これらの観察と上記の研究者や国内の様々な結核専門家、保健従事者との協議をもとに、合同レビューチームによって日本における結核対策の今後の方向性、政策、そして戦略に関する勧告を含む報告書案がまとめられた。
 翌1月20日(第6日目)は、合同レビューチームのメンバーを中心に、報告書案の勧告やその表現の妥当性など細部にわたる検討が施され、報告書を完成した。

結核対策の改革が課題
 報告書では、まず日本の結核の現状を分析し、@患者発見率はWHOの推計の70%以上であること、A地域格差が大きいこと、B結核患者に占める高齢者の割合が急速に増加していること、Cホームレスや結核高蔓延国で生まれた人々のような特定のリスク集団に患者が集中する傾向がみられること、D多剤薬剤性結核とHIV結核は現時点ではまだ大きな問題ではないが今後注意が必要であることなどを明らかにした。
 また、現在までの日本の結核対策が極めて勤勉で経験豊かな人々によって提供され、保健サービスの優れた基盤と潤沢な資金によって支援され、過去において日本の結核の状況に目覚ましい改善をもたらした点を示している。しかし、現行の結核対策が、主要抗結核薬やDOTS戦略などの近代的対策が現れる以前の1951年に確立された結核予防法を基本としている点を挙げ、日本の結核対策活動がそれらの法律と伝統的慣習に大きく依存していることを指摘している。そのうえで、保健制度と結核サービス、患者発見、治療、予防活動、サーベイランス、結核に関する研修とアドボカシー、Dr. Young Pyo Hongオペレーショナル・リサーチの各領域に関して、長所および課題についての現状分析を行い、21項目の勧告を提言した。
 この勧告について、評価チームは次のように報告書に記している。
 「過去における日本の結核対策の目覚ましい業績には敬意を表する。しかし、我々はこれまでの結核対策のうえに時代の流れに即した変革を求めている。これには抵抗や痛みが伴い、困難を極めるだろうが、現在の結核対策を徹底的に評価し、疫学や保健サービスの環境を整え、最も重要なDOTS戦略など、結核を制圧する新しいシステムを導入することは時宜を得たものである。我々はこうした変革を日本の関係当局に要請するために勧告を行ったのである」

メンバー紹介

(国際協力部企画調査科長 須知雅史)





第6回 国際結核セミナー

「結核患者管理のための病院と保健所の看護間連携について」
2001年3月1日、東京・日本都市センター会館

 今回は、看護をめぐる臨床と地域保健の円滑な連携をテーマに開催。全国の病院および保健所から定員を上回る応募があり、当日は300名が参加。結核対策上、最も重要な「確実な服薬治療」をキーワードに、名古屋市、横浜市、大阪府、京都府から先駆的な連携構築の取り組みが報告された。

連携マニュアル作成を通して役割を確認名古屋市南保健所 石井英子氏
 保健婦による病院面接の割合は年々増加し、喀痰塗抹陽性患者では、面接率が8割を超えている保健所も珍しくない。しかし、愛知県看護協会が実施した結核対策実態調査で「保健婦とのかかわりは患者面接時の取り次ぎ程度」と答えた看護婦が少なくなかったことから、名古屋市南保健所の石井英子氏は、保健所の担う結核対策に関して看護職の認識度が不十分であることを指摘、病院と保健所間の連携をマニュアル化し、具体策として作成した連絡票や服薬カレンダー等を紹介した。
 横浜市でも、国立療養所南横浜病院と結核に関する看護マニュアルを作成し、患者支援に効果を上げている。衛生局感染症・難病対策課の新堀嘉代子氏は、マニュアル作成過程で病院と保健所相互の機能や役割を確認しあったことが、その後のスムーズな情報交換や患者教育・支援の継続につながったと報告した。抄録に掲載された「患者面接連絡票」「退院患者訪問依頼票」等は、「今後の連携立ち上げに、即、役立つ」と参加者に大変好評であった。

連絡会議で服薬支援体制を強化
 京都府亀岡保健所の丹治和美氏からは、中部地域における保健医療連携についての経過が報告された。1993年の退院情報連絡システム検討会を皮切りに、毎年患者管理強化のための取り組みが実施され、1998年には3保健所と公立N病院との保健・医療連絡会議が立ち上げられた。この中で作成された保健医療連携マニュアルは、前述した名古屋市や横浜市のモデルとなっている。
 大阪府立羽曳野病院は、外来患者の治療中断の防止を目的に保健婦の訪問を依頼するなど地域と積極的にかかわってきた。昨年10月にスタートした大阪市保健所との看護連携会議では、院内DOTSから院外DOTSへの継続、DOTSカンファレンスの充実、療養手帳の作成・活用等が検討されている。看護婦長の久米田鶴子氏は、今後、連携会議を大阪府下保健所にも拡大し、連携マニュアルを整備しながら退院後の服薬支援の継続を強化したいと述べた。

日本看護協会常任理事 嶋森好子氏報開示と個人情報保護に留意
 日本看護協会常任理事の嶋森好子氏は、1999年に同会が実施した調査から、専門病院に移送できなかった結核患者が1年間に1病院平均2.2名いると報告した。合併症や空床がないという理由で専門病院から移送を断られた事例が2割を占めたことから、院内感染予防のためには一般病院も結核に関する専門知識を持つことの必要性を指摘した。病院と保健所の連携については、治療継続を目標に情報開示と個人情報保護の動きに留意しながら進めていくことが必要と述べた。
 まとめとして、山下武子対策支援部長は「これからの結核対策は、病院看護婦と保健所保健婦の連携が不可欠」と述べ、連携構築に向けての組織的な取り組みへ期待を寄せた。
 最後に、森亨結核研究所長の講演「結核の現状と問題点」で、今年のセミナーは幕を閉じた。

(対策支援部保健看護学科長 小林典子)





平成12年度 全国結核対策推進会議

結核対策の成果を共有し、さらなる改善をめざす
2001年3月2日、東京・日本都市センター会館

 全国から結核対策担当者266名が参集。結核対策の究極の目的である感染性結核患者の発見、治癒をめざし、現場レベルで改善した特対事業、保健所事業の成果を共有することによって、結核対策推進に向けての研鑚の場となった。

DOTS事業の推進をめぐって
 健康管理の機会に恵まれない階層、特に大都市に特有の住所不定者、簡易宿泊所等の人々へのDOTS(対面服薬治療、直接確認治療)の取り組みについての事例が4題報告された。なお、本会議では服薬支援活動の表現をDOTS(ドッツ)に統一した。
 東京都新宿区保健所の沼田久美子氏は、医療機関と保健所との情報交換に保健婦手作りの「DOTSノート」を利用した結果、ホームレスが多い50歳代で感染性結核の罹患率が30%下がったことを報告。
 横浜市衛生局感染症・難病対策課の新堀嘉代子氏は、罹患率が市平均の50倍もある寿地区の患者に対し、国立療養所南横浜病院の組織的な協力の下に院内DOTSを実施、退院後も地域の勤労者福祉協会の寿診療所で外来DOTSを行い、成果を上げていると報告。
 名古屋市中村保健所の小田内里利氏は、都市ごとの福祉行政の相違から生じる影響についてふれ、訪問看護婦が服薬を確認する「居宅DOTS」と保健所に通ってもらう「保健所DOTS」について報告。
 10年後には結核罹患率半減をめざす大阪市保健所の有馬和代氏は、あいりんDOTSについて報告。
 実際にDOTSに取り組んでいる保健婦たちからは「特別な環境にいる患者に適応するだけでなく、全体的に広げていくことが必要」「外来に通ってもらうだけでなく、こちらからの訪問も必要」「DOTSの実施には医療機関、福祉そして保健所の連携が必要」等の指摘があった。
 ほかに定期外健康診断のガイドラインの評価について、山形県村山保健所の渡會睦子氏から報告があった。

高齢者への予防投薬を提案関心を集めたポスター展示会場
 森亨結核研究所長は、日本の結核対策における本当の問題は罹患率の高い高齢者から若年者への伝播にあり、ターゲットは高齢者であるが、現行の結核予防法では30歳以上の予防投薬が適応できず、また健康保険でも認められていないことを指摘し、特対事業を通じて、効果が期待できる高齢者への予防投薬の制度化を提案した。
 また、山下武子対策支援部長から本会議の事務局を結核研究所対策支援部に設置し、次回は2002年3月に開催すること等が提案され、拍手をもって承認された。また、別室では10件の特対事業に関して、ポスター展示による発表が行われた。

(対策支援部図書・情報科長 風見嘉子)


Topics  「平成10年度 全国結核対策特別促進事業紹介」を作成
平成10年度に全国で行われた特別対策促進事業を一冊にまとめ、「全国結核対策推進会議」の参加者に資料として配布しました。どうぞご活用ください。
(内容:研修事業、教育事業、普及・啓発事業、検診事業、肺機能障害対策事業、高齢者対策事業、調査研究事業、組織活動事業、地区組織事業)





結核緊急実態調査結果について

21世紀の結核対策の方向性を探る

 21世紀の日本の結核対策はどうあるべきなのか。厚生労働省は「21世紀に向けての結核対策(意見)」を受けて、平成12年度に結核緊急実態調査を行い、わが国の結核蔓延状況と結核対策の現状に関する基礎的な資料を入手した。本編では各調査の主な結果をご紹介する。

推定届出率が低い高齢者と粟粒結核図1
 保健所が把握していた1998年(平成10年)中の結核死亡者数は1,826名であり、同年の人口動態統計における結核死亡者数2,795名から、推定届出率は65.3%となった。年齢別では60〜70歳代の高齢者で推定届出率が低く、病型別では粟粒結核の推定届出率が27.9%と低かった(図1)。

感染源が多様な予防内服対象者
 1998年登録のマル初患者から無作為抽出して得られた1,519名について調査検討した。発見方法は10〜14歳では定期健診による発見が多かった(57.5%)が、その他の年齢では定期外健診発見が多くを占めた(0〜9歳では60%前後、15歳以上ではほぼ90%)。感染源が特定された者は68.5%で、年齢別では15〜29歳で高く、9割に及んだ。感染源は0〜14歳では家族(81.9%)が多く、15〜19歳になると友人(28.4%)が多くなり、20〜29歳では職場関係(35.1%)が多く、次いで院内感染(20.4%)であった。服薬状況では84.6%が服薬を完了していた。

家族内感染が多い小児結核
 1998年登録の0〜14歳の患者全員にあたる268名のうち、転症例やマル初を除外した214名を分析の対象とした。年齢分布では0〜1歳が全体の33.6%を占めた。感染源が特定された者は55.6%であり、その割合は0〜4歳で69.4%と大きかった。感染源の種類では父親(40.3%)が最も多く、次いで祖父母(24.4%)、母(21.0%)の順であった。治療方式では95.3%で標準化療方式が行われ、治療成功率は86.0%であった。                  

生活困窮者に高い治療中断率
 1998年に登録された15歳以上の結核患者から無作為抽出した7,219名を分析の対象とした。全体の54.1%は60歳以上であった。発病に関連したと思われる要因では「糖尿病」「胃切除」「免疫抑制剤の使用」「悪性腫瘍」が多かった。治療成績では標準化療方式で治療された喀痰塗抹陽性者でみると、治療成功率は76.4%であった。なお、治療失敗は1.4%、治療失敗疑い0.3%、治療中断5.7%、結核死5.4%、非結核死4.9%、死因不明死2.6%、その他3.2%であった。また、治療成功率は年齢で異なり、80歳代では56.9%と低下し、死亡が増加した(図2)。治療中断率の高かったのは生活保護申請中(25.8%)、住所不定・ホームレス経験あり(24.6%)であった。

図2           図3

慢性排菌化の主因は自己中断
 1998年末において過去2年以上前から登録されており、しかも最近1年以内に排菌があったとされている1,234名全員を対象として調査を行った。慢性排菌化したと思われる要因の上位は「本人の不規則服薬、自己中断」「感性薬剤の1剤ずつの追加」「糖尿病」「副作用による服用の中断」であった(図3)。治療経過を観察した2年間について、持続的な排菌が確認された者は51.6%、菌陰性化後に再排菌したと思われる者は10.9%、その他の培養陽性が21.9%であった。

受診率が高いツ反とBCG
 過去3年間に実施されたツベルクリン反応検査とBCG接種は、出生数にほぼ匹敵する件数で行われていた。初回ツベルクリン反応検査の年齢分布では、6か月未満で50.3%に行われており、1歳以前に行われている者は80.5%に達するが、2歳になってから接種を受ける者も4.3%いた。

地域間格差が大きいBCG接種技術図4
 BCG接種技術調査では、最大で15.5±3.9から最小の5.7±6.2まで、地区別の平均BCG針痕数にかなりのばらつきがみられた(図4)。BCG未接種であった理由をみると、「当日体調が悪くて延期され、そのままになった」が多かった。
 なお、本調査報告の詳細については、結核研究所のホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい。

(対策支援部企画科長 星野斉之)





究極の目標は結核の根絶

医療、保健、福祉の連携が必要

「DOTS戦略」は「WHOのブランド商品」
 「Directly Observed Treatment Short course」の頭文字を取ってDOTS戦略という。WHOが次の5要素を結核対策の戦略として広く世界に呼びかけたのは1995年からである。その5大要素とは、@肺結核喀痰塗抹陽性患者を最重点とする、A患者が薬を飲み込むのを確認する、B患者の治療成績を確認し報告する、C適切な化学療法剤を必要期間投与する、D政府はDOTS戦略を指示し、実施に責任をもつ―というものである。
 目的は、いうまでもないが、結核患者を治し、感染を予防し、結核死亡を防ぎ、多剤耐性結核の発生を防ぐための戦略である。究極の目的は地球上からの結核の根絶である。

「DOTSの考え方はどこから?」
 44年のストレプトマイシン(SM)の開発、52年のイソニアジド(INH)の開発で、「結核は治る病気」になった。しかし、現実には「適切な治療方式が処方されない」「患者は薬を規則的に服用できない」「早期に中断する」などの障害が生じ、治療失敗が目立ったのである。
 そこで英国のDr. Fox Wは「確実な服薬の重要性」を強調し、国の結核対策の確立、医療、保健提供者側の理解と熱意が重要と強調、64年に「監視下間欠療法」(Supervised Intermittent Chemotherapy)を提案、これは途上国に浸透したが、世界的には広がらなかった。
 しかし、70年代後半、ニューヨーク市で、AIDS、麻薬中毒、移民、難民、ホームレス、失業などの結核患者に「DOT」(ディーオーティー=直接監視下服薬)を採用し、結核患者の治癒率向上に成功したのである。

「日本のブランド商品開発」
 日本では60年代後半からDr. Foxなどの影響を強く受けた結核研究所の医師らによって、結核対策専門家、とくに保健所の保健婦への研修内容に「確実な服薬の指導」として浸透していった。加えて、確実な服薬を保証するためには、医療と保健と福祉の連携が重要であると強調し、余儀なく入院となって職をなくした患者には、治療中の生活保護、回復期には職業訓練と職業斡旋事業などを展開している。
 その後、結核対策専門家の減少と世代交代、教育の変遷により、国民および関係者の関心は低下し、今日ではWHOブランド商品を新鮮に感じとる時代になってしまった。手づくりのよさが見直されたがごとく、「一人ひとりの患者を完治させるために必要な服薬の支援活動」を患者の状況に合わせて関係者一同が一丸となって見守っていこうという制度、これを名づけて「日本版21世紀DOTS戦略」とし、厚生労働省は都市部における結核対策の普及を強調しているところである。
 しかし、都市部だけでよいのであろうか?世界にない「日本のブランド商品」にするためには、すべての結核患者に対して「日本版21世紀DOTS戦略」の理念を普及させるべきであろう。それも、医療と保健と福祉が同じ土俵にたって「結核患者の治癒」をめざし、それぞれの立場でできることを競って実践し、効率よく結果を出していくことが重要である。
 それもマニュアル化するのではなく、いままでにない自由な発想で「一人ひとりの患者に合わせた方法」で柔軟に対応できる連携行政こそが「日本版21世紀DOTS戦略」であり、今後に期待されるところである。
 繰り返すが、目標は「結核患者の治癒」であり、究極の目標は、この世から「結核」をなくすことである。

(対策支援部長 山下武子)

【参考文献】青木正和:DOTS戦略の生成と発展、呼吸器疾患の結核.資料と展望.結核予防会.
22:1−10.1997.8.
(2001年3月12日付 Japan Medicineより転載)


Information
研修日程(於:結核研究所)
 医師    医師短期研修(定員30名)  
        胸部X線読影研修(定員30名)
 6月20日〜29日
11月19日〜22日
終了
 放射線   夏期研修(定員60名)     
        短期8日間コース(定員30名) 
 8月22日〜24日
11月19日〜29日
終了
 保健婦   夏期研修(定員150名)    
        対策8日間コース(定員60名)
 8月 1日〜 3日
 7月10日〜19日
 9月18日〜28日
終了
終了
 臨床検査技師短期研修(定員20名)   9月 4日〜14日 締切
 結核行政担当者等短期研修(定員100名) 10月16日〜19日
結核予防技術者地区別講習会 終了
 北海道:5月31日、6月1日 石川県:6月7日、8日
 茨城県:6月14日、15日 岡山県:6月28日、29日
 大阪府:7月5日、6日 山形県:7月26日、27日
 宮崎県:8月2日、3日
第7回国際結核セミナー
 会期:平成14年2月25日(月)
 会場:日本都市センター会館
 テーマ:「日本の結核対策、レビュー」(仮題)
平成13年度全国結核対策推進会議
 会期:平成14年2月26日(火)
 会場:日本都市センター会館
第77回日本結核病学会総会
 会期:平成14年4月16日(火)、17日(水)
 会場:日本都市センター会館
 テーマ:「結核対策技術の研究と開発のブレイクスルーを求めて」

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