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結核研究所からのお知らせ

東日本大震災被災地の皆様へ(第2報)

避難所で活動する医療健康支援に携わる方々へ
避難所における結核の発症疑いへの対応について
単なる風邪なのかそうではないのか?-基本的な考え方



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http://www.jata.or.jp/rit/rj/jata_hinan%20Ver%205.3.pdf

1)東北地方(岩手、宮城、福島)の平常時の結核発病者は年間10 万対12 人で、避難所生活を送っている被災者の方々が20 万人程度とすると、東北被災地方で一カ月に2 人程度の発病となる。また過去の阪神淡路大震災時の経験からは、震災後の結核患者数に顕著な増加は見られていない。ハイチの震災時も、結核病院が倒壊したことによる患者の離散は問題であったが、下痢症等のように結核が次々に伝染して急増した情報はない。結核は空気感染する感染症であるため、絶えず忘れてはならず、以下のような注意は必須であるが、短期間に避難所で大流行を来すものではない。頻度から言えば、避難所等で呼吸器症状を訴えている場合には、普通感冒・インフルエンザ・肺炎等を疑った対応が優先する。

2)集団避難生活中に咳痰等の呼吸器症状を訴える場合には、その原因を問わず普通感冒やインフルエンザ等への感染対策をかねて、可能であれば咳エチケットを徹底させる。マスクが無いなら、咳/発話時などにはタオル等で口鼻を覆うよう指導する。


3)肺結核に特徴的な臨床症状も身体所見も存在しないため、一定の所見のみに着目することによって肺結核とそれ以外を鑑別することは困難である。呼吸器症状を訴える避難者に対しては、その症状の原因が結核であるか否かよりも「単なる風邪か、そうではないか、問診聴診以外に検査を行なったほうがよいか」を判断することを優先した方が良い。高齢者・結核の既往・糖尿病・免疫抑制剤投与者・低栄養状態など、結核発症リスク因子などを念頭においた上で、以下のような場合(アor イor ウor エ)には「単なる風邪ではないかもしれない」として対処する。

ア)2 週間以上続く咳があるが咳の出現が亜急性or 慢性である、および/または、咳の出現の前後に典型的な普通感冒の急性症状の出現が観察されていない(のどの痛み/鼻水/発熱/倦怠感など)。したがって丁寧な問診が重要である。咳を伴う普通感冒では70-80%の人は発症から2 週間以内に咳症状が収束するので、急性の咳症状で典型的な上気道炎症状のみであれば2 週間程度経過観察してもよい。2 週間以上咳が持続する場合には上記を参考に「単なる風邪なのかそうではないのか」を判断する。聴診上雑音を聴取する場合には通常の肺炎を疑う根拠になるが、肺結核では聴診上所見がない場合も多い。

イ)通常の抗生剤に反応しない、ないしは不完全にしか反応しない。抗生剤は可能なら一般細菌肺炎および非定型肺炎に効果のある抗生剤を-必要なら二種類を順に-使用する。肺結核の症状は悪化と改善を繰り返すことがあるため不完全な反応にも一応の注意を要する。

ウ)長引く軽い咳のみの場合。通常患者は強い咳の場合に「ただの風邪ではないかもしれない」と思うかもしれないが、咳レセプターは上気道に集中しているため、激しい咳を訴える場合には頻度的には喘息を含む上気道気管支系の疾患が多い。

エ)咳の持続を繰り返すようになった場合(本人は「最近風邪を引きやすくなった」というが、鼻水/のどの痛など普通感冒に見られ症状が欠如している)


4)諸検査の中で肺結核に一番感度が高いのは胸部X 線写真である。「ただの風邪ではないかもしれない」と疑った場合には胸部X 線写真撮影を優先する。それ以降の検査の必要性や方針に関しては胸部X 線写真の結果に従って、呼吸器科医ないし経験のある内科医に判断を仰ぐ。移動手段や検査手段の問題で胸部X 線写真がただちに施行できない場合には避難所で喀痰を(可能であれば異なった日に2 回ないし3回)採取し検査室に送って結核菌検査(塗抹培養同定検査および核酸増幅法検査)を優先することも考慮される。この場合採取容器は事前に検査室と相談する必要がある。


5)結核が強く疑われるが確定診断がつくまで数日かかる場合や、診断がついても移送入院まで日数を要する場合には、他の人と空気を直接に共有しない個室に移す。不可能な場合には2)で述べた咳エチケット等を指導する。


6)たとえ結核患者が避難所で発生した場合でも、結核のすべてが感染性ではなく、多くに人にうつすわけではない。周囲へ感染を広げる可能性が高いかどうかに関しては、喀痰の塗抹検査で判断される。喀痰の塗抹検査が2-3 回連続で陰性であればたとえ最終診断が肺結核であったとしても、集団感染の危険性はひとまず安心できる。万が一感染性の肺結核患者が発生した場合でも、結核はインフルエンザなどに比較してはるかに感染力が低く、心構えとしては「結核はそれほど簡単には感染しない」と思ってよい。また、避難所で新規に感染した場合でも発病の確率は10%前後と低く、高齢者の多くのように以前結核菌に感染した者ではさらに低い。また新規感染した後に発病する場合でも殆どが感染後6 ヶ月以降である。

7)既に結核の診断を受け、治療を開始した方が治療を中断すると再発し感染源となる危険が高い。よって既に避難所にいる人で、他の病気と同様、結核の治療中の人や治療を中断して治療薬を飲まずにいる人がいないか、早めに本人から情報を教えてもらうように徹底する。

※結核に関連したコンサルトは最寄りの保健所の他、結核研究所でも受け付けています

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2011/04/30