最近のエイズ合併結核症の治療

   1997年4月、日本ではじめてプロテアーゼインヒビターとしてインジナビル(ク リキシバン)が保険適応を認められた。いっぽう1996年10月、プロテアーゼ インヒビターとリファンピシンなどリファマイシン誘導体の相互作用は、アメ リカのMMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)に載せられている。つま り、リファマイシン誘導体は肝臓のチトクロームP450オキシダーゼを誘導 し、プロテアーゼインヒビターの代謝を促進し、その血中濃度を下げてしま う。プロテアーゼインヒビターはリファマイシン誘導体の代謝を遅くするた め、その血中濃度を上げて副作用を起こしやすくする。ゆえに、リファマイ シン誘導体とプロテアーゼインヒビターを同時に使用することは勧められてい ない。ただしインジナビルとリファブチンの間ではこの相互作用に伴う血中濃 度の変化と副作用の問題は少ないとされている。アメリカでは結核とHIVのど ちらの治療をどう優先するかについては下記のような勧告がでている。

CDC(アメリカ疾病対策予防局)の勧告(MMWR 45巻42号)

プロテアーゼインヒビターを開始していない場合:
 標準的な結核治療を行える場合、結核の治療を完了させてから、プロテアーゼインヒビターを開始す る。結核菌が薬剤耐性などの場合、ケースバイケースで対処する。

プロテアーゼインヒビターをすでに使用している場合:

 選択1:  プロテアーゼインヒビターは結核治療している期間中(6ヶ月以上)中断する。

 選択2:  プロテアーゼインヒビターは結核治療の初期強化期間2ヶ月間中断する。結核治療の維持治療期間はHR(ヒドラジドとリファンピシン)でなく16カ月のHE(ヒドラジドとエタンブトール)で行う。

 選択3:  プロテアーゼインヒビターとしてインジナビルを使用し、リファンピシンでなく、リファブチン(一日150mg)を使用する。(リファブチンの副作用に気をつける)

このほか、
ニューヨーク市結核対策課の勧告では(TBfact sheet2i, 1997年5月)

プロテアーゼインヒビターを開始している場合:

 選択1:  2HRbZE/7HRb(Z=ピラジナミド、Rb=リファブチン、2,7はそれぞれの薬剤を使用する月数)でインジナビルをプロテアーゼインヒビターとして使用する。

 選択2:  結核の治療にリファマイシンを使用せず2HZE/16HE(及び2-6カ月間のSM)とする。(つまり2HZE/4SHE/12HE)

プロテアーゼインヒビターを使用していない場合:
 CD4が200以上の場合:結核の治療終了後、プロテアーゼインヒビターを使用する。

 CD4が200以下かプロテアーゼインヒビターの使用が望ましい場合:

 選択1:  プロテアーゼインヒビターを結核の初期強化治療期間の2ヶ月間中断する。維持治療期間はHRでなく7HRbで、インジナビルをプロテアーゼインヒビターとして使用する。

 選択2:  プロテアーゼインヒビターを結核の初期強化治療期間の2ヶ月間中断する。維持治療期間はHRでなく10HZEで行う。

 選択3:  結核の治療はリファンピシンの代わりにリファブチンを使用し(2HRbZE/7HRb)、インジナビルをプロテアーゼインヒビターとして使用する。

 選択4:  結核の治療にリファマイシン誘導体を使用せず2HZE/16HEとし(及び2-6カ月のSM)プロテアーゼインヒビターは使用する。

としている。同書では、プロテアーゼインヒビターを中止することに対して消極的であるが、ヒドラジド耐性リファンピシン感性の場合は、プロテアーゼインヒビターを中止し、リファンピシンを用いることを勧めている。

 日本の場合、リファブチンが使用許可になっていないので、リファブチンを用いる治療という選択はなく、アメリカの場合より選択の幅が狭くなっている。

(文責:結核研究所疫学研究部 疫学科長 吉山 崇)


Updated 99/06/02