免疫抑制宿主における
結核発病防止


国立療養所千葉東病院 副院長  山岸文雄


はじめに
 
現在の結核新登録患者の半数以上が60歳以上の高齢者からの発病で占められ、また高齢者はステロイド剤の服用者や糖尿病合併者などの結核発病のハイリスクグループに属することが多いことから、結核患者の発病数を減少させるためにはこれら免疫抑制宿主に対して、対象を絞り込んだ化学予防が望まれています。そこで結核を発病する免疫抑制宿主として、糖尿病、腎透析、膠原病、肺癌を取り上げ、化学予防を行うことの是非、及び化学予防を行う場合の対象者設定基準について検討を行いました。

1.糖尿病
(1) 肺結核患者における糖尿病合併頻度の増加
年次別糖尿病合併頻度当院にて入院治療を行った肺結核患者における糖尿病合併頻度を検討したところ、1987年から98年までの12年間に、肺結核患者4,169名中、糖尿病合併例は588名、14.1%でした(表)。4年ごとの合併頻度では、11.8%、14.5%、15.6%と、合併頻度は増加傾向にありました。男性は16.0%、女性では8.3 %と、男性の合併頻度は女性の約2倍でした。年齢別の合併頻度では、男性は40歳代が21.3%、50歳代が23.4%と、働き盛りの年代で合併頻度が高くなっていました。

(2) 医師は糖尿病は結核発病のハイリスクグループであると認識していない
 最近、当院に入院した初回治療の糖尿病合併肺結核症例のうち、糖尿病と肺結核が同時に発見された者を除く57名中、定期的に胸部X 線検査を受けていたのはわずか15名(26.3%)でした。糖尿病を診療している医師は、糖尿病は結核発病のハイリスクグループであることを、ほとんど認識していないことが分かりました。

(3) 糖尿病合併肺結核症例の過去の胸部X 線所見で陳旧性病変が多く認められた
 最近、当院で入院治療を行った肺結核の初回治療例で、かつ糖尿病の発見が先行した57名中、定期的に胸部X 線検査を受けていた15名を含め、過去に撮影した胸部X 線写真の取り寄せが可能であったのは21名でした。21名中、肺結核の病変なしが6名、陳旧性病変ありが8名、活動性病変ありが7名でした。活動性病変の7名を除き、治療歴がないにもかかわらず14名中8名(57.1%)に治癒所見を認め、これら8名は糖尿病の指摘から平均15年で肺結核を発病していました。治癒所見が認められた時に化学予防を行っていれば、結核発病が防げたかもしれません。

(4) 糖尿病患者における化学予防の是非と、化学予防対象者の設定
 
糖尿病の人は、そうでない人に比較して結核を発病しやすいと言われています。どのくらい発病しやすいかという相対危険度は、JR 東日本中央保健管理所の内山先生の検討では5.7倍、結核予防会千葉県支部の鈴木先生の検討では5.6倍と、諸外国のものと同様に高い値でした。また今回検討した肺結核患者では糖尿病合併率が高いことから、糖尿病に対する化学予防は必要であると考えられました。その対象者は、結核治療歴がないにもかかわらず胸部X 線写真で治癒所見が認められる者とし、また男性の肺結核症例では40歳代、50歳代で糖尿病合併頻度が高いことより、高齢者に限らず必要であると考えられました。

2.腎透析
 
腎透析を行っている2,893施設に結核発病の実態のアンケートを行い1,210施設(41.8%)から回答を得ました。平成8年には220名の結核患者が発生し、二次調査で79名の回答を得ています。全結核罹患率は男性では88.4(全国全結核罹患率44.8)、女性では43.2(同23.2)と、2.0倍、1.9倍でした。肺結核罹患率は男性52.2(全国肺結核罹患率39.0)、女性19.3(同18.5)と、1.3倍、1.0倍と低率でした。透析患者は過去の報告での罹患率は高く、化学予防について、今後さらに慎重に検討する必要があると考えられました。

3.膠原病
 
昭和63年から10年間に慢性関節リウマチを除き、当院に結核で入院しステロイド剤を投与された膠原病症例の結核発病時の投与量は、15名中12名がプレドニゾロン1日10mg 以上でした。この投与により結核発症のリスクが増すとの報告があり、また今回の検討でもそれが認められたことから、プレドニゾロン1日10mg 以上の投与を長期間行う場合には化学予防が望ましいと考えられました。


4.肺癌
 昭和63年から10年間に当院に入院し、肺癌治療が肺結核発症より先行した肺癌合併肺結核症例1 2名について検討を行いました。陳旧性肺結核の病変を認めたものは4名で、この4名中3名にステロイド剤の投与がなされていました。また放射線肺臓炎や脳転移に対してステロイド剤の長期投与がなされた症例は、この3名を含め12名中6名であり、ステロイド投与を長期間行う症例では化学予防が望ましいと考えられました。

まとめ
 免疫抑制宿主からの結核発病防止のための化学予防の必要性、及びその対象者設定について検討を行いました。糖尿病では結核治療歴がなく胸部X 線写真で治癒所見がある場合には、化学予防は必要であると考えられました。また、腎透析での化学予防は必ずしも必要ではなく、膠原病・肺癌ではステロイド剤長期投与例では化学予防が望ましいと考えられました。


Updated 00/11/24