MGIT法

抗酸菌の迅速検出法

 

結核予防会大阪府支部      大阪病院長 螺良 英郎

 

 

結核診療に欠かすことかできないもの

 結核の診断、治療に当たっての基本はX線画像診断もさることながら、抗酸菌を喀痰、胸水、気管支洗浄液などの検査材料からできるだけ短時間に検出することにあるのは言うまでもない。培養は小川培地による培養法があらゆる点から推奨され、汎用されてきている。しかし結果が出るまでに4〜8週という長期を要することは、結核診断の迅速化が求められている現状にそぐわない。
 そのため米国では、10日から2週間で抗酸菌を培養しうる方法が開発され、普及している。一つは、BACTEC(バクテック)(460TB)である。しかしこのBACTEC法ではアイソトープを用いることに問題がある。そこで、アイソトープを用いず蛍光発色によって抗酸菌を迅速に検出しうるもう一つの方法がベクトンディキンソン社で開発された。Mycobacteria Growth Indicator Tube法で頭文字を取ってMGIT(ミジット)と呼んでいる(青木正和:本誌No252)。結論としてMGITとは簡単な操作で、抗酸菌群を従来法よりも短期間に検出率も良く検出しうる方法である。
 ここではMGITの評価について10施設(注)での共同研究の成績を引用して述べる。
 広島県環境保健協会、結核予防会大阪病院、国立療養所東埼玉病院、結核予防会結核研究所、国立療養所刀根山病院、国際臨床病理センター、京都大学胸部疾患研究所、 国立療養所近畿中央病院、大阪府立羽曳野病院、独協医科大学越谷病院

 

MGITの原理

 MGITの原理をごく大ざっばに説明すると次のようになる。
液体培地を入れた試験管の中に、培地中の溶存酸素に感受性のある蛍光化合物が埋め込まれている。もし、活発に呼吸する抗酸菌があれば酸素が消費されることから紫外線を当てると試験官の底と培地の表面にオレンジ色の蛍光が観察されるというものである。

 

MGITの方法
 それではMGITの方法を具体的に述べる。
a前処理
(CDC(米国疾病対策センター)法に準じて)
 検査材料に応じて前処理は異なるが喀痰を例にとると、遠心管に喀痰とその2〜数倍容量のNALC-NaOH*を加え、vortexミキサーで20秒間攪拌する。その後室温で15分間放置後、5倍容量以上の0.067Mリン酸緩衝液で中和、3000G、15分間冷却遠心、その沈渣に右記緩衝液1mlを加え試料とする。
b培養
 BB LMGITに0.5mlのOADC*2と0.1mlのPANTA*3を加え、これに上記NALC-NaOH処理液を0.5ml加え混和後、37℃で培養する。
C判定
 経日的に発育を365oのUVライト照射で観察し、MGIT底部等のオレンジ蛍光をもって判断する。  

表1 681検体よりの検出率
抗酸菌の検出率からみたMGITと小川との比較

 喀淡(651)、気管支洗浄液(13)、胸水(11)、髄液(3)、胃液(3)の681検体中(うち塗抹陽性303(44.5%))、MGITでは329例(48.3%)小川では250例(36.7%)が培養陽性であった(表1)。
 表は省略したが、その内訳を見ると、結核菌群と同定された237例中MGITではその全例が培養されたが、小川では187例(78.9%)であった。非結核性抗酸菌の93例中MGITでは92例(98.9%)、小川では63例(67.7%)で、両者を併せた抗酸菌群330例でもってみるとMGITではその99.7%にあたる329例が検出され、一方小川では250例の75.8%にとどまったことになる。
 また、結核菌塗抹陰性検体のみで見ると、MGITのみで陽性は28例62.2%、小川のみ0%、両方ともでは17例37.8%が分離された。すなわち塗抹陰性例においても小川に比しMGITの検出率は明らかに高かった。また非結核性抗酸菌群についても同様の良い成績が得られた。

 

発育までの所要日数の比較

 結核菌群187株の検出までの所要日数はMGITでは平均17.6日(4〜56日)、小川では平均31.6日(14〜56日)であった。MGITでは小川に比し平均で14.0日も早く検出可能であった。
 さらに非結核性抗酸菌群中の代表であるMAC40株についてみると、小川では31.9日であったのに比しMGITでは7.2日と短かった。
 なお迅速発育菌群ではMGITと小川とでは差がなく4日であった。

 

塗抹陽性と陰性の検体別での発育所要日数
図1 検出までの平均日数

 塗抹陽性の検体の分離は結核菌群ではMGITで16.5日、小川で29.9日と平均で13.4日も早く検出された(図1)。また、塗抹陰性検体では小川で48.5日(平均)であったのがMGITで28.0日(4〜56日)で、20.5日も早期に検出された。非結核性抗酸菌群においても同様の傾向がみられた。

 

培地汚染率

 MGITで1.5%、小川で1.8%で両者間に大差はなかった。

 

MGITの利点
表2 MGIT法の優れている点

 以上の共同研究成績の概要は斎藤、阿部らの研究成績ともほぼ一致している。これらをまとめてみると、

@喀痰などからの全抗酸菌症の検出率は、MGITでは小川に比し4.5〜11.6%高かった。

AMGITでは小川に比し結核菌群では約20%、非結核性抗酸菌群では約30%も高い検出率を示した。

B塗抹陰性検体での菌検出能力では、MGITが小川より優れていた。

CMGITでの検出までの所要日数は、結核菌群では小川より約5〜12日、非結核性抗酸菌群では約10〜24日早く検出しうる。

Dこのように小川と比しMGITが優れている理由は、接種量が多いこと、検体のNaOH処理濃度から見て抗酸菌への抑制が少ないこと、 培地条件の良いこと、集落発生の判定がMGITでは酸素反応性センサーを用いるので、より迅速になったためと解される。

 最後に、MGITの利点をまとめてみると表2のごとくになる。


Updated 98/03/06