目次

1 検査 2 BCG 3 治療 4 接触者健診 5 外国人患者への対応 6 制度に関する質問 7 結核菌の消毒・保管・運搬

          


 3.治 療
 (1) 服薬中の注意
   ➢ イソニアジド(INH)内服中の食事の注意
  
   内服中の食事で注意することはありますか?  
  
   
   通常の食事で問題ありません。
   ただし、頻度はまれですが、イソニアジド(INH)内服中に、ヒスチジンを多く含有す
   る魚 (マグロ、カツオ、ブリ、サバ等)の極度の大量摂取によるヒスチジン中毒(頭痛、
   紅斑、嘔吐、掻痒)や、チラミンを多く含有する食物(チーズ等)による血圧上昇と動惇
   が現われることが報告されています。



    内服時間
  
   結核の薬は、いつ内服すればいいでしょうか?  
  
   
   
リファンピシン(RFP)は、食前の服用の方が吸収がよいとされていましたが、食後のほ
   うが胃の負担も少なく、効果に大きな差はないことが明らかになり、現在は他の薬と
   一緒に1度で確実に内服することが勧められています。
   結核の治療のためには、確実な内服が大切なので、自分の生活習慣に合わせて、最も
   忘れにくい時に服用するとよいでしょう。




 (2) 妊娠・授乳中の治療
   ➢ 妊娠中の結核治療
  
   妊娠中に結核の治療を受けても、胎児への影響はありませんか?  
  
   
   妊娠中、イソニアジド(INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB) を内服
   した時の先天異常の発生率は、薬を使っていない人と、違いはありません。
   出産時に母親が肺結核を発病していると、新生児に結核を感染させる危険が生じます
   ので、その前に治療を開始すれば、児が生まれたときに感染性が低下します。胎児へ
   の胎内での感染による先天性結核は世界でも100例くらいしか報告がない稀な疾患で
   すが、母体の治療をした方がリスクを減らすことができると考えられます。
   ただし、「全ての薬には潜在的な毒性があり、妊娠初期3ヵ月間はイソニアジド(INH)
   を控えるべき」、という意見の医師もいます。
   米国CDCのガイドラインでは、妊娠中のイソニアジド(INH)服用時のビタミンB6の服
   用を推奨しています。



   ➢ 授乳中の結核治療
  
   授乳中に結核の薬を飲んでも大丈夫でしょうか?  
  
   
   結核の薬は母乳への移行は少量であり、これまで乳児への影響は指摘されていません。
   米国CDCのガイドラインでは、イソニアジド(INH)を服用している授乳中の母親にも、
   ビタミンB6の服用を推奨しています。

   ちなみに、授乳中の潜在性結核感染症治療については、平成25年3月に日本結核病学会
   予防委員会・治療委員会より示されました「潜在性結核感染症治療指針」では、下記
   のように記載されています。
  「授乳について添付文書上は「授乳を避けること」とあるが,同じくATS/CDC ガイドラ
   インでは,「これまでに授乳による児への影響は報告されていないことから禁忌では
   なく,児にはビタミンB6 の補充を行うべき」とされています。
   詳しくは日本結核病学会ホームページへ →「潜在性結核感染症治療指針」 
   http://www.kekkaku.gr.jp/ga/Vol.88(2013)/Vol88_No5/Vol88No5P497-512.pdf






 (3) 薬剤耐性例
   ➢ 薬剤耐性を疑う患者の治療
  
   当院は小規模な結核病院ですが、過去の結核治療中断歴より薬剤耐性の可能性ありと
   考えている患者の治療法について相談できますか? 
  
   
   過去の治療中断歴や、感染源と推定される患者の薬剤耐性検査の結果などから、薬剤耐
   性の可能性の高い患者の場合、結核専門医療機関等へ相談して下さい。
   
詳しくは日本結核病学会ホームページへ→
  「薬剤耐性結核の医療に関する提言」
http://www.kekkaku.gr.jp/pdf/aninfo-201106teigen.pdf
  「結核医療高度専門施設」
    
      
  
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/dl/tuuchi.pdf




 (4) 肺外結核の治療
    リンパ節結核
  
   リンパ節結核の治療について教えてください。 
  
   
   薬剤耐性のないリンパ節結核の場合、肺結核に準じた標準治療により良好な治療結果が
   得られています。なお、外科的治療の適応は、化学療法で改善が見られなかった例や腫
   脹して不快な状態などが対象となります。




 (5) 潜在性結核感染症(LTBI)の治療と経過観察
   ➢ 妊婦に対するLTBI 治療
   平成25年3月に日本結核病学会予防委員会・治療委員会より示されました「潜在性結
   核感染症治療指針」では、下記のように記載されています。
  「妊婦に対するLTBI 治療については,INH の添付文書では「投与しないことが望ましい」
   とされているが,ATS/CDC ガイドラインでは,「最近の感染やHIV で結核菌の胎盤
   への血行性散布または発病が起こりやすい状態では,母児とも危険な状態に曝される可
   能性があるので,肝機能障害に対して十分注意をしたうえで治療したほうがいい」とさ
   れている。」


   ➢ BCG未接種の乳児のLTBI 治療
  
   BCG未接種の乳児が、感染性のある結核患者と濃厚接触し、直後のツ反で陰性、胸部
   X線検査も異常なしでLTBI治療を開始しました。
   ① 2ヵ月後のツ反で陰性でもLTBI治療を続けたほうがよいでしょうか?
   ② LTBIの6ヵ月治療終了後、BCG接種はいつが適当でしょうか? 
  
   
   ① 一般的には結核に感染した後、ツ反が陽転するまで(=この期間を「ウィンドウ期」
    と呼びます)に3~8週間を要するとされていますが、乳児はさらに長い期間を要す
    るケースもみられ、感染源との最終接触から約3ヵ月(12週)後のツ反結果によって、
    最終的な感染判断を行うことが適当とされています。
    3ヵ月後にツ反陰性が確認されれば「感染していなかった」と判断し、その時点でLT
    BI治療を中止し早期にBCGを接種することが適当と考えます。また、BCG接種後には
    コッホ現象が疑われる局所の所見の有無を慎重に観察することも大切です。
    一方、多量排菌の感染源と濃厚かつ頻回な接触状況や、同じ程度の接触があったグル
    ープ内の感染割合が高く「感染リスクが高い」と評価される場合では、感染後早期か
    らのLTBI治療により菌の増殖が抑えられたため、3ヵ月後ではツ反が陽転に至らず、
    治療を中断してしまうと再度菌が増殖して、発症に至る可能性もあることから、3ヵ
    月目のツ反陰性であっても、6ヵ月間の治療を継続することが必要な場合も考えられ
    ます。
   ② LTBIの治療を6ヵ月間終了した場合でも、終了直後に実施した感染診断結果が陰性の
    ままであれば、間を置くことなくBCG接種を行うことが可能です。

   ※その他注意すべき点
    3ヵ月後の最終的な感染判断までの間、概ね1ヵ月毎に対象児の健康状況やLTBI治療
    への受け入れについて確認することも大切です。
    特に、感染リスクが高いと評価されるケースでは中途においても感染判断を反復し、
   (例えば2ヵ月時にもツ反を実施)、「感染」例を早期に把握して、適切な発症診断の
    適用(胸部X線写真では検出できない肺野及びリンパ節病巣を見逃さない為に造影CT
    も積極的に適用)することを心がけることも望まれます。



   ➢ LTBI 治療中におけるBCG接種の効果
  
   LTBI治療中のBCG接種は効果が減弱しますか? 
  
   
   BCG菌はウシ型結核菌を継代培養して作られた生ワクチンで、イソニアジド(INH)に感
   受性があり、投与中に接種をしても殺菌されて効果は減弱するため、接種は勧められま
   せん。



   ➢ LTBI 6ヶ月治療後のQFT値
  
   LTBIへの6ヵ月間の治療の後もQFTの値が高値のままですが、治療の延長が必要でしょ
   うか? 
  
   
   一般的にLTBIの治療によりQFTの値は低下する傾向にありますが、6ヵ月の投与後も依
   然としてQFTが高値のままのことも少なくありません。そのため、LTBIの治療の効果判
   定にQFTを用いるのは不適当と考えられます。



   ➢ LTBI 診断時の発病確認におけるCTの必要性
  
   LTBIの診断にあたって、発病の有無の確認にCTは必要でしょうか? 
  
   
   胸部X線検査によって発見できなかった病変をCTで発見できることもありますが、CT
   による被ばくの大きさと費用を考えると、全対象者にCTを行うのではなく、対象者の同
   一集団の感染率が高い場合や既に発病者がある場合、対象者に免疫学的な問題がある場
   合や咳・痰などの呼吸器症状がある場合など、発病している可能性が高いと考えらえる
   者に実施するのが妥当とされています。
   詳しくは日本結核病学会ホームページへ → 「潜在性結核感染症治療指針」 
   
http://www.kekkaku.gr.jp/ga/Vol.88(2013)/Vol88_No5/Vol88No5P497-512.pdf



   ➢ LTBI の単剤治療における耐性菌の出現
  
   LTBIの単剤投与は耐性菌の出現につながりませんか? 
  
   
   一般的にLTBIでは体内菌量が少なく、確率論的に耐性菌が選択される可能性は低いと考
   えられております。耐性菌の出現対策には、服薬中断しないことが重要です。



   ➢ 多剤耐性結核患者の接触者へのLTBI治療
  
   初発患者がイソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP)の両方に耐性のある多剤耐性結
   核の場合、その接触者へのLTBIの治療はどのようにしたらよいでしょう? 
  
   
   日本結核病学会予防委員会・治療委員会の「潜在性結核感染症治療指針」において、治
   療レジメンの勧告は行っておらず、服薬なしで厳重に経過観察を行い、発病した場合に
   速やかに治療を開始することも選択肢として挙げられています。
   米国では、多剤耐性結核感染者のうち、発病のリスクが高い場合(例えば HIV 感染者)に
   は、 感染源の他薬剤への感受性により、ピラナミド(PZA)と エタンブトール(EB) やピラ
   ナミド(PZA)とフルオロキノロン(NQ)の2 剤による6ヵ月間の内服を考慮するようにと
   勧告されています。
   詳しくは日本結核病学会ホームページへ → 「潜在性結核感染症治療指針」 
   
http://www.kekkaku.gr.jp/ga/Vol.88(2013)/Vol88_No5/Vol88No5P497-512.pdf



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