Use DOTS More Widely
確実な服薬支援をめざして
〜院内DOTS の取り組み〜

国立療養所千葉東病院
看護師長 那須 綾子

院内DOTS 導入までの経緯
 結核の患者数は,生活水準の向上,医療技術の進歩,結核対策の推進により1960年頃より著しい減少が見られた。しかし,それまで減少を続けていた新規発生患者数が,97年増加に転じた。99年7月に厚生大臣(当時)は「結核緊急事態」を宣言し,国民や関係団体等に注意を喚起すると共に対策の強化を訴えた。
 結核の治療にあたり最も大切なことは抗結核薬を規則正しく内服し,治療完了することである。当院は,県内唯一の結核の国立医療機関として,結核患者が年間約600名入院している。当院のDOTS取り組み前の服薬管理方法は,自己管理できない患者のみ看護師管理とし,その他の患者には薬を半月分渡し自己管理する方法をとっていた。しかし服薬の重要性を認識していても飲み忘れをしたり,また中には自己中断していることもあり,その都度個別の対策をとっている状態であった。
 治療成功率の向上を目指し,2000年に公衆衛生審議会結核予防部会から「日本版21世紀型DOTS戦略」が提言され,当院は2001年5月より内服開始から退院まで全患者対象にDOTS開始した。

院内DOTS を開始するにあたって
@病院職員全体にDOTSについて理解を求めるため医師による講義
A結核4カ病棟が統一した支援を実施できるように,DOTSマニュアルを作成
B看護師が10時から11時の間に出向き内服確認させてもらうことの了承を得るため,患者用のDOTSパンフレットを作成
C業務の混乱を避けるため,10時に実施していた検温をDOTS終了後に業務調整
D当院オリジナルのDOTS専用与薬車(各病棟2台ずつ)を考案し業者へ発注,薬の収納ケースは誤薬防止のため内服前(オレンジ)と内服後(ブルー)が一目で分かるようシグナルカードを取り付ける等を工夫
E患者が何種類もの薬をシートから取り出す手間を省き,確実に内服できるようにするために,抗結核薬の一包化を薬剤科に依頼
F内服確認に責任を持たせるために処方箋に確認者の捺印欄を添付
G問題点や改善すべき点はないか,医師と看護師が定期的に検討し合う「DOTSの集い」を発足

院内DOTS の方法
期間:内服開始から退院まで
時 間:10:00 〜11:00
対象者:全患者
与薬者 :受け持ち看護師
与薬手順
@処方箋控えを添付した薬袋を1つのケースに1人分のみ保管
A10:00にDOTS専用与薬車を廊下に移動
B受け持ち看護師は薬袋をベッドサイドに持参し,患者と共に薬を確認,内服を見届けた後,処方箋に捺印
C薬袋を保管するケースのシグナルカードを与薬終了シグナルのブルーにチェンジ
D全患者のシグナルがブルーにそろったことを確認後,リーダーはカードを与薬前シグナルのオレンジにチェンジ
患者指導
@内服開始前にパンフレットを用いてDOTSについて説明
A内服開始前と退院前に薬剤師が服薬指導
B退院後の服薬方法について,確実に服薬できる時間,処方の形態(シートまたは一包化)を相談し,内服継続ができるよう指導
退院が決定したら薬袋を患者保管とし,DOTS実施時間に受け持ち看護師が内服確認

服用開始時患者説明用パンフレット
結核薬の飲み方についてのお知らせ
 結核の治療は,毎日きちんと薬を飲むことが重要です。薬を飲んだり飲まなかったりしますと,結核菌に対して耐性がついて,薬が効かなくなってしまうことがあると言われています。
 御自分では毎日きちんと飲むようになさっていても,時には薬を飲み忘れてしまうこともあると思います。
 そこで,この飲み忘れをなくすために,結核の薬(イスコチン,リファンピシン,エブトール,ピラマイドなど)については,毎日看護師が薬を持って10時から11時の間に皆様方の病室にうかがい,皆様方が薬を飲まれるのを看護師が確認させていただきます。結核の薬は,この時にまとめて飲んでいただきます。
 従いまして,薬を飲み終わるまでの10時から11時までの間は,必ず病室にいていただきますよう,ご協力お願いいたします。
 ご不明の点などがございましたら主治医あるいは看護師長に,ご遠慮なくおたずねください。

主治医・病棟看護師長

結核の薬について
「結核の薬について」↑をクリック

院内DOTSの成果
@DOTSへの移行時期に既に薬を自己管理していた患者からは,「信用していないのか」「子供じゃない」「見ていられると飲みづらい」などの苦情が出たが,自己管理をしていた患者たちが退院されてDOTS開始以降に入院されてきた患者だけになると苦情はなくなり,むしろ「飲み忘れがなくなる」「飲む時間が守れる」「飲む習慣が身に付く」「看護師さんが来てくれるのでうれしい」「大切にされている」等の良い評価を得るまでになり,円滑に実施できるようになった。
ADOTS開始前は,看護師から「業務量が増える」「煩雑になる」「無理難題」などの不満の声が出たが,DOTSの必要性を説明し,合意を得た。現在では,患者とコミュニケーションを取りながら確実に服薬確認をすることができるため,DOTSに対する達成感が得られている。
B内服を1日1回にしたことと薬を一包化したことにより,誤薬防止につながった。
C与薬ケースにシグナルをつけたことにより,与薬もれ防止になった。
D内服開始から退院まですべての患者にDOTSを実施したことにより治療脱落はない。

院内DOTS 開始後1 年を経て思うこと
 当院のDOTS成功の鍵は次の2点である。
 第1に医師,薬剤科,看護部の協力である。結核患者の治療成功率を向上させようという共通の目標を持った時,他部門同士の気持ちが1つになり,DOTS開始のための周到な準備を進めることができた。
 次に看護師の意識改革である。DOTSにより確実に結核を治癒させる,そしてそれは今後の私たちの手にかかっているという意識が,業務量増加に対する不満の撤廃につながった。
 この2つなしでは院内DOTSの開始はあり得なかっただろう。
 1日も早い結核撲滅を目指して看護師としてできることは,今目の前にいる感染源となる患者を1人でも減らすことである。今後も結核の治療推進のために確実な服薬支援,服薬中の生活指導ができる看護師を目指し続けていきたいと思う。


updated 03/03/14