2年連続で患者数が増えています
新登録患者数
新たに結核と診断され登録された患者

43,818人

(罹患率)
人口10万人当たりの新登録患者の割合

(34.6)

塗抹陽性患者数
たんの中に菌が発見される患者

14,482人

(罹患率)

(11.4)

結核死亡数

2,935人

(死亡率)

(2.3)

年末活動性患者数

48,888人

(有病率)

(38.6) 

 

1999年

なぜ「緊急事態」なのでしょうか

日本で結核が最も猛威を振るったのは、大正から昭和初期にかけて。つねに死亡率のトップを占め、国民病として恐れられていました。
それが第二次世界大戦後、生活の向上や結核対策の徹底などにより、世界に類を見ないほど休息に患者を減らすことができました。ところが1977年(昭和52年)ごろから、その勢いが急ににぶりはじめたのです。1997年(平成9年)には、とうとう患者数、罹患率ともに前年より上回るという事態が発生しました。あまりにも順調に減ったために、「結核は過去のもの」という認識が人々の間に広がり、警戒感を持たなくなってしまったことが大きな原因と考えられます。21世紀の子孫にこの病を伝えないために、結核への正しい知識を持ち、立ち向かうことが大切です。


 

知っておきたい結核の知識 2000年結核事情 年代別傾向と対策

 


知っておきたい結核の知識要注意なのは、あなたです。

お年寄り 免疫力の低下で眠っていた結核菌が目を覚ます
お年寄りの患者数、罹患率共に高いのはなぜでしょうか。これは、結核の蔓延期に結核菌に感染しながら、発病しないで免疫ができていた人たち(既感染者)の中に、年を取って免疫力が衰え、発病するケースが増えているからです。既感染のお年寄りがいつの間にか発病して、周囲の未感染の人達にうつすことも心配されます。最近では、老人施設等での結核集団感染も問題になっています。

免疫力の落ちて発病しやすい人
多くの人にうつす危険のある人
高齢者だけでなく免疫力が弱まっていると、結核を発病する危険性が高くなります。糖尿病の人や、透析をしている人のほか、ステロイド剤を飲んでいる人、HIV感染者も免疫力が落ちて、発病しやすくなります。これとは別に、発病すると多くの人にうつす危険性のある職業の人達がいます。学校の教職員、医師・保健関係者、接客業の人などは、集団感染の火元になりやすいので、注意が必要です。

これは1962年(昭和37年)から1998年(平成10年)まで、37年間の結核罹患率(人口10万人当たりの結核患者の割合)の移り変わりを示すグラフです。
1977年(昭和52年)ごろまでの急なカーブが徐々になだらかになり、ここ何年かの横ばい傾向、あるいは年代によっては増加傾向が見られることが分かります。増加しているのは、15〜19歳、20歳代、60歳代、70歳代。やはり高齢者の罹患率の増加が懸念されます。

結核と結核菌・結核は結核菌によって起きます。結核菌は結核患者のせきやくしゃみで空気中に飛び、人の肺に吸い込まれることによって感染します。結核菌が肺の中に入って増殖しだすと、体の免疫機能が活動を始め、多くの場合、結核菌を閉じ込めてしまいます。

うつっても発病しない人・閉じ込められた結核菌は、肺の中で眠ったままその人と一生を共にします。これを免疫機能が油断なく監視し続け、外部から新たに入った結核菌もすぐ撃退してくれます。こうなった人を「既感染者」と呼びます。あとは重症の患者のそばにいても、うつりません。

発病する人・結核菌を吸い込んだとき、何らかの事情で免疫機能が弱まっている人は、発病してしまいます。そのときの健康状態や栄養状態、また体質などが関係する場合もあります。徹夜が続く、やせるために食事を取らない、偏った食生活をしている、という状況は大変危険です。

発病すると・最初のうちはかぜとよく似た症状です。ただ、いつまでもせきやたんが止まらず、微熱が続きます。そのうち、だるさ、寝汗、胸の痛みといった症状が出てきて、さらにひどくなると喀血したりします。結核菌の増殖で肺に空洞ができ、それがどんどん大きくなって、最後は呼吸困難で死亡することになります。

うつす人・うつされる人・発病して症状が進み、たんの中に結核菌が検出される「塗抹陽性」になると、人にうつす可能性が高くなります。すぐに周囲の人や接触のあった人の、X線検査やツベルクリン反応(定期外検診)をして、感染していないかどうか調べる必要があります。

免疫のある人は安全か・一度結核菌に感染して免疫を持った人=既感染者が、生涯発病することがないかというと、必ずしもそうではありません。体力が弱って免疫力が低下したり、糖尿病、透析、大手術などで免疫力が弱くなったときに、眠っていた結核菌が活動を始めて、発病することがあります。高齢者の結核は、ほとんどこうして起きます。 


2000年結核事情ここが困った
困った1:重症になってから見つかる患者が多いこと
咳や痰が続いてもかぜだと思って本人が放っておいたり、病院へ行ってもお医者さんが結核と気づかなかったりで発見が遅れ、症状が進んでから見つかる患者が増えています。重症になって、痰の中に菌が発見される状態(*塗抹陽性)になると、危険性も高くなります。*痰をガラス板に塗りつけて染色処理し、光学顕微鏡で見る検査(塗抹検査)で菌が発見されること
困った2:20〜30歳代の患者が増えたこと
若さにまかせて無理をしたり、ダイエットや偏った食生活で栄養状態が良くなかったりすると、感染者は発病しやすく大変危険です。最も活動的な世代であるため、人と接触する機会も多く、感染を受けやすいのも問題です。
困った3:お年寄りの患者がますます増えていること
高齢者が多いのは毎年のことではありますが、70歳以上の患者が全体の3分の1以上を占め、60歳以上が過半数を占めています。また患者数だけでなく、増加率も70歳以上が最も高くなっています。*既感染率の高い高齢人口の増加が要因と考えられていますが、集団感染の火元となることが憂慮されます。*すでに結核菌に感染していること
困った4:集団感染が多発していること
学校、事業所などでの集団感染、病院や福祉施設などでの院内感染が多発しています。結核にかかってもそれと気づかず重症化してしまい、学校や会社などで周囲にうつしてしまう。既感染のお年寄りが発病して、他のお年寄りや医療スタッフが感染してしまうという例が多発しています。
  困った5:大都会の片隅で患者が増えていること
東京、大阪など大都市で、ホームレスや不法滞在者の間で結核が高率に発見されています。しかも、治療が遅れたり、途中で挫折したりで、治療成功率が低いのが問題です。最近では、患者が服薬するのを確認して投与する方法「DOTS」を採用し、治療を継続させる努力が続けられています。

 


 

年代別傾向と対策
乳児:感染すると一気に重症化して、結核性髄膜炎や粟粒結核といって命にかかわるほどの状態になることもあります。後遺症も深刻です。
BCGを接種していれば、感染しても重症化は防げます。生後できるだけ早い時期に接種しましょう。

小学生児童:相対的に強い年頃で、発病も割合少ない時期です。
BCGの効果は、小学生時代も持続していると考えられています。

思春期:結核菌に好かれる年代です。発病すると進行が早く、特に女子が弱い傾向があります。
乳幼児期に受けたBCGの効果がそろそろ薄れることなので、油断はできません。

青年期:思春期に続いて結核菌に好かれる世代。ただし、女子より男子に発病が多くなる傾向があります。
活動的な世代なので、ひとりの患者が出るとあちこちで感染者が出ます。若さにまかせて無理をしたり、偏食などで栄養状態が悪かったりは危険。定期的な検診を忘れずに。

壮年期:比較的安定した時代です。ただし生活習慣病がでてくる世代なので、それにともなって免疫力が弱まり、発病することもあり安心できません。
免疫力が薄れるという点では若い世代と同じなので、注意が必要です。

高齢者(60歳以上):年を取ればそれだけでも免疫力が落ちるうえに、生活習慣病も加わって、最も危険な年代です。
発病しても気づかずに重症化させたり、家族など周りの人にうつすことがないよう、症状が出たら早めに専門医の診察を受けることが大切です。

結核のQ&A 結核の基礎知識
結核についてのなぜ?を家庭での知識として
ご活用いただけるよう分かりやすく解説しました。
 

 

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