ストップTBイニシアティブと
日本への期待

IUATLD東部地域大会報告  99.6.4〜6.8


結核研究所国際協力部長   下内 昭


 今回第20回目を迎える本会議は「肺疾患―21世紀に向けて」と題して6月4〜8日、香港で開催された。
 会場は香港島のワンチャイ地区で、海岸沿いにある貿易センターで非常に広い建物であった。周りもいわゆる摩天楼が林立しており、昔の香港のイメージからはほど遠い変わりようである。開会式には、香港政府の行政トップのチャン女史が招かれた。保健医療問題では、医療費が毎年7%増加しており所得の増加が追いつかず、このままではサービスの低下につながると危惧を示した。また、呼吸器疾患の予防のために大気汚染などの都市問題全体にも取り組む必要性を強調した。
 開会式の直前には、世界結核デーのアドボカシーをどのように実施するかについてシンポジウムが行われた。強調されたことは、どの目標対象にどのような内容のメッセージを伝えるかである。また、成功している国とそうでない国があり、成功例の要点をまとめて他の国にも知らせるべきであり、東部地域でもIUATLDやWHOと協力して、十分なアドボカシーができていない国を支援する態勢を築くべきであるということ、例えば、そのための責任者を指名すべきであるなどの意見が出された。

世界的視野での結核対策
 2日目の「世界的視野での結核対策」では、IUATLDのエナーソン氏が、HIVや耐性菌の増加を懸念し、リファンピシンを使用する時にはDOTSが必要であることを強調した。そして、WHOの報告では既に結核による死亡が減少していることを引用し、WHOが結核をまだ優先課題と認めているのか、予算の中にはっきりと表されているかと問いかけをした。
 また、WHOの古知氏は新しい推計では毎年死亡が200万人、新患者が800万人だと紹介し、女性の死亡原因の第一であること、結核・HIVの重感染、耐性菌の増加を問題にあげた。また、全世界の結核患者の61%が東部地域(WHOの西太平洋地域に25%、南東アジア地域に36%)に発生しており、世界の高まん延国の12カ国がある。今後、アフリカではHIVによってますます患者が増加し、2〜5倍になるであろう。東ヨーロッパでも古い結核対策と急速な予算の減少で患者が増加している。また、全体では35%の患者が民間医療機関にかかっている。今の結核対策は、中小国家ではWHOの目標を達成しつつあるが、多くの大国では進行が遅い状態である。従って、戦術的に力を注いで勢いをつける時期に来ており、強い指導力と社会的動員が必要であり、そのためにストップTBイニシアティブを開始した。これは、世界の各団体が積極的に参加して進めるもので、WHOはやや後ろに退くことになるのかもしれないと述べた。この後、質問に答えて、WHOが続いて指導力を発揮するためには各国が直接WHOに訴えてほしいということであった。

初の中まん延国会議中まん延国会議風景
 3日目には、結核研究所が呼びかけて、東アジア地区の中まん延国(中国沿岸部の都市、韓国、台湾、香港、シンガポール、マレーシア)が集まり、それぞれの問題と対策を発表した。韓国を除いては過去10年間ほど罹患率が低下していないことを問題として取り上げ、問題分析と対策の研究を今後実施することにした。日本としても、報告制度、BCG接種、集団検診、外国人、ホームレス、DOTSなど共通の対策を、深く掘り下げて研究し情報交換することは有意義なことである。今後、年に1〜2度のペースで会合を持つ予定である。


米国の経験
 最終日は台風の影響で1時間遅れて開始し、参加者も半減してしまった。米国のアイスマン氏が20世紀の結核研究の成果を振り返ると同時に、米国での結核の再流行という苦い経験の反省を述べた。また、「米国生まれのインド人が親戚の結婚式に出席するためにインドに帰って、第1次抗結核薬すべてに耐性の結核にかかり、治癒するのに2年かかり、20人に既に感染させてしまった。その人たちには予防内服も効かない。」という例をあげて世界で総力を上げて結核を制圧しなければならないことを訴えた。
 また、ほぼ全期間中ポスター発表のためのポスターが貼られたままであり、特別な時間は割り当てられていなかったが、個人的に説明や議論している光景が多く見られた。

ストップTBイニシアティブワークショップ
 
閉会式が終わってから、WHO西太平洋地域の「ストップTBイニシアティブ」のワークショップに参加した。世界の22の高負担国のうち4カ国(中国、ベトナム、フィリピン、カンボジア)が西太平洋地域に位置する。この4カ国と、地域の重要性からモンゴルとパプアニューギニアの結核担当官も参加し、2年間程度の行動計画案を作成した。WHO本部担当官の説明によると、本部の結核課がなくなった代わりに、世界の多くの団体をパートナーとして結核対策の推進に巻き込むことがストップTBイニシアティブの目的である。幸いに西太平洋地域事務局長の尾身氏が結核を最優先課題にあげているが、今後、日本政府や結核予防会からの積極的な支援が必要とされ、それなくしては地域の結核対策は強化され得ないだろう。この運動をいかに盛り上げていくかが国際社会における結核予防会の優先課題であろう。


Updated 99/09/08