「パキスタン結核対策プロジェクト」活動報告
結核予防会国際部 医師 塚本幹夫


抗結核薬管理のためのワークショップ

1. パキスタンの概要
パキスタンは79.6万平方キロメートル、日本の約2倍の国土に1億6千万人の人口を有します。パキスタン・イスラム共和国という国名が示すように国教はイスラム教で、言語はウルドゥー語ですが、公式文書は英語で書かれます。パンジャブ州、シンド州、北方辺境州、バロチスタン州の4州と、行政区としてイスラマバード市、カシミール地方、Northern Area, Federally Administered Tribal Area等があります。それぞれの地域にそれぞれの言語があり、民族もそれぞれ異なり、連邦共和制をとっています。


パンジャブ州結核対策プログラムの啓発ポスター

2. プロジェクト紹介
パキスタン国には結核患者が推定200万人以上いるといわれ、世界第7位の高蔓延国となっています。世界保健機関東地中海地域事務所域内ではパキスタン国だけで管轄国全体の44%の数を占め、この地域最大の高蔓延国となっています。パキスタン国の結核罹患率は全結核が10万人あたり181、喀痰塗抹陽性肺結核が10万人あたり82であり、年間28万人が結核にかかるとされています。

このような状況の中、世界保健機関が推奨する直接監視下短期化学療法 (DOTS) が1995年から一部地域で導入され、2000年7月にはパキスタン国政府が国家結核対策事業計画を策定してDOTSが国家戦略として採用されました。パキスタン国政府は2001年に結核を国家の緊急課題と宣言し対策に乗り出しました。2000年に宣言された地方分権化政策によりDOTSの実施主体が中央政府の結核対策プログラムから州および県に移管されたためこの地方展開を行うにあたり、パキスタン政府は技術的な支援を日本政府に要請しました。

これを受けて日本政府は2002年12月に、専門家を派遣し技術移転を開始しました。2006年4月にはプロジェクト実施計画の最終合意が得られ、2006年4月から2009年3月までの3年間の協力期間でパキスタン国結核対策プロジェクトが正式に開始されました。プロジェクトは連邦政府レベルでは国家結核対策プログラム(NTP), 州レベルではパンジャブ州結核対策プログラム(PTP), 県レベルではDistrict TB control Unitと協力して活動しています。 主な活動地域であるパンジャブ州は人口8900万人でパキスタンの4分の1の広さにパキスタン人口の56%が住み、推定患者数は東地中海地域の4分の1を占めます。パンジャブ州の結核対策の成否がパキスタン国の結核対策の成否に与える影響は大きいと言えます。パンジャブ州には35の県があり、喀痰塗抹顕微鏡検査設備を有する診断センター数は州全体で466,治療センター数は2681です。

プロジェクトの主な活動はパンジャブ州の4つのモデル県(グジュラート県、ファイサラバード県、ラホール県、ムルタン県)で効果的な結核対策プログラムを強化するために、DOTSの実践のための医療関係者への研修の実施、医療関係者による定期的な会議の推進、定期的な巡回指導などを実施しています。4モデル県での活動結果を基にパンジャブ州PTPの能力を強化するために定期的な州レベルでの結核対策官を対象とした会議やワークショップを開催しています。パンジャブ州の結核菌検査ラボのネットワークを向上させるためパンジャブ州レファレンスラボラトリーの支援や、外部精度管理の実施、顕微鏡検査技師による定期会合の実施などを支援しています。抗結核薬管理を向上させる目的でのオペレーショナルリサーチの実施、ワークショップの開催を支援しています。 国家レベルの協力はNTPの管理能力を強化させるため、モニタリング、評価、巡回指導、電子化記録報告システムの研修、州および他のドナーとの調整、抗結核薬管理ガイドラインの策定などを実施しています。 パンジャブ州ではPTPマネージャーの強力なリーダーシップのもと、結核対策に取り組み、2007年第2四半期の報告では喀痰塗抹検査陽性結核の患者発見率が70%、治療成功率が90%、治療脱落率が5%と目標値を達成しました。それと同時に、データの信憑性の評価が今後の課題です。

3. 個人的な感想
技術協力プロジェクトである以上、相手国に不足する技術を指導することで技術移転を行い相手国の結核対策に資することがその大前提です。結核予防会の持つ知識と技術、JICAの持つ国際協力のノウハウを生かし、パキスタン国にとって日本の技術支援が、真に求めるもの、役に立つものとなるには、パキスタンで今不足する知識と人材の分野に焦点を絞る戦略が必要です。例えば、スプラナショナルラボ(SRL)とのネットワークが構築されるナショナルラボの設立、信頼できる結核菌培養と薬剤感受性検査技術の指導、多剤耐性結核サーベイの実施、オペレーショナルリサーチの指導などが今パキスタンには必要と思われますが、この国の人材、資材だけでは実施できないのが現状です。今、日本がこれらの分野における協力を提供できれば、貴重なODA予算を有効に活用できるのではずです。プロジェクトの活動を計画する際にはパキスタン結核対策プログラムへの単なる役務提供や費用の分担になることのない様、数年先を見越した計画策定が国際協力戦略には求められると思います。

ファイサラバード県で実施した世界結核デーのウオーク ラリー


11/2007


Updated 03/03/10