第35回IUATLD(国際結核肺疾患予防連合)   年次総会

●2004年10月28日〜11月1日/パリ

結核研究所研究主幹
和田 雅子
筆者, 今学会発表ポスター前にて

 パリで開催されるこの会議に参加したのはこれで2回目であるが,前回に比較して非常に多くの人々が参加しており,また演題も豊富となっていた。発表内容は,単に医学的な方面のみならず,社会学的アプローチの研究までと非常に幅広く,それが結核という病気のユニークな面なのかもしれない。
 会議はパリ市内,ブローニュの森の端に位置しているPalais Des Congres で,WHOなどを含む10の団体の後援で開催された。世界109カ国から約1,200名が参加した大会議であった。最も参加者が多かったのは米国で153名の参加があり,IUATLDの役員を擁するフランスの79名,WHO職員を擁するスイスの66名を遙かにしのぐ数であった。日本からはわずか筆者を加え14名の参加であった。そのうち8名が結核研究所からの参加であった。
 会議の内容は非常にもりだくさんであった。こでは筆者が参加し印象深かったテーマについて紹介したい。

Quanti FERONとツベルクリンの比較
 潜在性結核感染の治療のセッションでは,第2世代のQuanti FERONについて報告がなされた。米国の成績では,BCG接種をされていない人では,発病の危険の程度による陽性基準別にQuanti FERONの成績とツベルクリン陽性の割合がほとんど同じであった。米国生まれの人についてはツベルクリン反応検査(以下,ツ反)で判断しても問題がないと思われた。しかし米国では結核患者の約半数は外国生まれで占められるようになったので,BCG接種との鑑別ができる検査は今後有用性が高まるのではないかと思われた。
 香港の発表では,ツ反でも発病の危険因子別に陽性基準を決め,反応を硬結径ではかれば,Quanti FERONに劣らない成績であったと報告された。なお,香港では2000年にBCG接種の制度が変更され,現在は新生児に接種しており,15歳以下で接種歴の無い者にはツ反なしで直接BCG接種を行っている。また,接種後の瘢痕の確認やツ反は行わず,再接種も行われていないとのことであった。

耐性菌サーベイランスと治療成績の報告
 WHOのAziz先生が座長を務める「耐性菌の頻度をはかる意義はあるか」と題したシンポジウムに参加した。今回の耐性菌サーベイランスは3回目の報告である。第1回は1997年に35カ国,第2回は2000年に58カ国,第3回は77カ国の参加で行われた。
 初回治療例の耐性の頻度は0%(西ヨーロッパ)から57%(カザフスタン),個々の薬剤に対する耐性頻度の中央値はSM 6.3%,INH 5.9%, RFP1.4%,EB 0.8%。初回治療例の多剤耐性の頻度は0%からカザフスタンの14.2%。耐性菌の頻度の推移を46カ国で調査できたが,減少した国,増加した国など種々であった。治療歴がある例の耐性菌の頻度は66カ国で調査された。いずれか1剤に耐性の頻度の中央値は18.4%から82.1%(カザフスタン)で,個々の薬剤に対する耐性菌の頻度はSM 11.4%,INH 14.4%,RFP 8.7%,EB 3.5%であった。また治療歴がある例の多剤耐性菌の頻度は中央値7.0%,最も高かったのはオマーンの58.3%とカザフスタンの56.4%であった。また43カ国で推移を調査できた。いずれか1剤耐性菌の頻度が増加したのはボツワナで,キューバ,スイス,米国では減少した。また多剤耐性菌の頻度はエストニア,リトアニア,トムスクオブラストで増加,スロバキア,米国で減少した。耐性菌の頻度はその国の結核対策の良否を示していると言われているが,まさに経済的危機に直面し,公衆衛生上の下部組織が崩壊した国々においては,耐性結核の頻度が高くなっており,対策のうまく行っている国では耐性菌,特に多剤耐性菌の頻度が低くなっていることが明らにされた。
 午後からは,薬剤耐性と多剤耐性結核の治療のセッションへ参加した。日本結核病学会でも講演されたIseman先生により,National Jewish病院における多剤耐性結核の治療成績が,外科治療とニューキノロン薬の使用後に改善されたことが報告され,外科手術とニューキノロン薬の有効性が強調された。またHarvard大学からPaul Farmer先生が,ペルーでの多剤耐性結核に対し一定の方法で治療を行い成功した例が報告された。いずれもすでに論文となっている仕事であるが,多剤耐性結核に対し,Standard regimen(標準治療),Tailored regimen(個々に治療方法を組み立てる方法)のいずれを選択すべきかが議論の的になっているので,適宜なテーマであったと思われた。

移動する人々の結核対策
 午後は「移動する人々の結核」と題してノルウェーのHeldal先生が座長となったセッションに参加した。世界的に南から北へ,貧しい国から富める国へ,田舎から都会への人口の移動が見られ,そのような人々に対する結核対策をどうするかが問題となっている。しかしいずれの国でもまだしっかりとしたガイドラインはできておらず,模索している状況であるが,やはり一番進んでいるのは米国であった。いずれの国でも結核治療は無料で提供していた。

さまざまな興味深い研究報告
 4日目(11月1日)午前中に,Late-breaker sessionに参加した。それぞれ興味ある研究だった。ブラジルからはDOTSプラス積極的接触者健診(DOTSA*)を行い,コントロールと比較して,DOTSAを行った都市では結核の罹患率が減少したと報告された。またタイ国では結核研究所で研修を受けたPetchawan先生から,イスラム教徒と仏教徒の結核,エイズへの偏見について興味ある報告がなされた。またスペインからは多剤耐性結核に対し,Zinezolidを使って治療成功した4症例の報告がなされた。またEuroTBからは薬剤耐性結核は旧ソ連邦出身者に多いことが報告された。

秩父宮妃世界賞授与される
 10月30日には恒例の学会賞授賞式があり,秩父宮妃記念結核予防世界賞が結核研究所石川副所長よりHans Rieder先生(スイス)に授与された。また,IUATLDメダルは日本の結核対策reviewerとして結核研究所に来所されたJacob Kumaresan先生(米国)が受賞された。

* DOTSA:患者が発見されると積極的に接触者を見つけ,化学予防を行う。化学予防に対してもきちんと終了できるように指導し,その治療成績の有無を調べる。

結核研究所石川副所長よりHans Rieder先生に秩父宮妃記念結核予防世界賞を授与

updated 05/3/14