王立オランダ結核予防会(KNCV)創立100年記念集会
〜強く打ち出されたNGO主義〜

2003年10月9日/ハーグ
結核研究所長 森  亨

 1903年に創立されたKNCVは本年100周年を迎えるに当たり,その記念行事として2003年10月9日,この「100周年記念会議」を開催した。会場はKNCVの本部があるハーグ市中央の王立劇場,出席者は事前の登録名簿によれば250人,うち200人近くが外国人であった。外国人の中には招待客も少なくなかったが,この会議に併せてKNCVが招聘したWHO/ストップTBの「DOTS拡大作業部会会議」(結核研究所国際協力部須知部長が出席),「ストップTBパートナーシップ理事会」(森出席)の出席者が合流したことによるところが大きい。
 会議は午前9時から午後8時まで行われた。会議の前後にはパフォーマンス(ボーカル「DOTS賛歌」など),当日収録ビデオによる各国の参加者の祝辞紹介があり,最後は舞踏会(夜半までとのこと)があった。
 まず開会式は,歓迎の辞(会長ブルークマン博士),祝辞(保健大臣),基調演説(WHO事務総長),会議主題への序言(世界銀行部長)があり,続いて各国NGO代表からの基調報告(国際結核肺疾患予防連合,インドネシア結核予防会,バングラデシュBRACなど)。次に参加者全員を6班に分け,それぞれを,用意された宣言文の内容を分割した6のサブテーマに割り当て,グループ検討を行った。その後結果を持ち寄り,「結核対策におけるNGOの役割(スローガン「NGOは結核対策の第一線に立て」)として宣言文をまとめた。
 最後にKNCVが国際協力のための資金調達の姿勢を明確にするために設立した基金の名前で,優良DOTSプログラムとしてベトナム,タンザニアを表彰した。
 この集会は数年前からKNCVが熱心に準備していたものだが,その間に進んだ結核対策の国際協力実施機関としてのKNCVの発展を内外に印象づけるものとして,大きな成功を収めたものと言える。特にWHO関連の重要な集会を2つ招致し,その出席者を巻き込み,見せつける形で展開した点など,演出には心憎いものがある。また議事内容や宣言文からも知られるように,会議を通して「非政府団体主義」を強く押し出していたことが印象的であった。KNCVは,オランダはもとより米国やカナダ政府の国際援助機関とがっちり提携して資金を得ているはずだが,そこでこの民間主義のメッセージは何なのか。KNCV自体がODAの金まみれになっていることに批判や危機感があるのか,それとも純粋に民間からの寄付の拡大をねらってのことか。あとで聞いたところでは,オランダ国内の結核対策のなかでKNCVが臨床的なサービスにも役割を担っていることに対して国内で批判が高まっており,それへの対抗の意味もあるようであった。
 おそらくKNCVが招待したのだろうが,思いもかけずアニック・ルイヨン博士(1960年代から80年代にかけてIUATLDの事務総長)に15年ぶりに会った。ただ,だれもが口にこそ出さなかったが,ここにDOTSの生みの親スティブロ博士(1922〜98)がいたら,とだれもが思っていたにちがいない。考えてみれば,1970年にチェコから亡命してきた彼を暖かく庇護した頃に,既にKNCVの今日のあり方(結核国際協力のシンクタンク)が決まりつつあったとも言えるのではないか。

updated 04/04/05