TSRU(結核サーベイランス研究会)
2003年会合報告
                    4月3日〜5日/タンザニア

結核研究所長    森   亨   

 TSRU2003年会合は,4月3日〜5日の3日間,DOTS発祥の地の1つであるタンザニア,首都ダルエスサラーム郊外のバガモヨで開催された。リヴィングストーンゆかりの地,かつての奴隷積み出し港のあった所と聞く。この会議は2000年に結核研究所がお世話して東京にて開かれた後,スイス,ベトナムに続いての開催である。出席者数は総勢60人程度で,先進国ではオランダが最も多く5人,スイス,ドイツ,デンマーク,スウェーデン,韓国がそれぞれ1〜2名,WHO(本部,WPRO),IUATLD,アフリカでは地元タンザニアが最も多いが,ほかにはマラウィ,南ア,ボツワナ,セネガル,ザンビア,ケニア及びインドなどであった。日本からは筆者のほか結核研究所国際協力部山田企画調査科長が出席した。

学術検討会
 学術検討会は,タンザニア保健省副大臣の祝辞を含む開会式の後,3日間にわたり開催された。内容の概略は以下の通りである。

1.TB-HIV
 主としてアフリカ諸国の経験について発表があった。 Williamsらによれば,HIV感染後CD4細胞数が500を切った時点でHAARTを完璧に行うと,その後の結核患者発生数は50%減できるが,HAART治療のコンプライアンスが低くなれば効果も非常に小さくなるとのことである。

2.塗抹顕微鏡検査
 塗抹検査技術の改良(フェノール硫酸アンモニア沈殿法,カルボールフクシン液の濃度の変更,蛍光法など),喀痰採取時期の意義,精度管理(再染色の意義),塗抹検査弱陽性の意義,治療開始後2カ月で菌陽性例に強化相を延長する意味などについて発表があった。

3.新しい診断技術
 筆者は日本の第2世代QuantiFERONの経験について発表した。オランダのようなBCG接種をしていない国でも,結核問題の半分以上がBCG接種や非結核性抗酸菌感染の多い途上国からのあふれ出しなので,このような方法は意義が大きいとのこと。ほかにこの方法の疫学応用,血清診断,途上国でのPCRの経費効果分析そして細菌の発生する臭気(揮発体)を分析して結核菌ないし結核病変を発見する方法の研究など(これはベルギーのベンチャーの研究,「電子の鼻」)について報告があった。

4.その他
 インドのPPM(公私医療連携),南アの地域結核有病率調査,タンザニアのツベルクリン・サーベイ(HIV流行下に関わらず感染危険率が著減したとの報告。バイアスか?),香港の罹患率減少傾向鈍化の原因(WPROの中まん延国研究の延長),オランダ全国RFLP分析の接触者対応への影響,結核感染のどれだけが家族内・地域内で起こるか(南アでのRFLP応用研究,高まん延状況では家族内感染は意外に少ない),ドイツの地域RFLP分析,韓国のPPM(いまや扱う結核患者数で民間医療機関が保健所をしのぐようになった状況での問題)などの演題があった。

国際結核サーベイランスセンター総会
 主としてツベルクリン・サーベイを中心とした途上国のサーベイランスの援助に関する活動,測定器具(キャリパース)の改善,20mm以上の大きな硬結の記載方法,トレーナーのトレーニング,デンマーク血清研究所に対するツベルクリン(RT23)値下げ交渉の経過,ツベルクリンサーベイデータ分析技法(ミックスモデル)の研究進捗状況,等々について報告された。
 この会議はもともと先進国のサーベイランス研究を主目的とした貴重な結核疫学研究の場だったが,今回はそのような演題は少なく,途上国の問題が中心となっていた。これは80年代にWHO本部がメンバーに加わったときに「途上国が対象とならなければWHOの参加は無意味」というWHOの意向に沿って,アルジェリアやタンザニア,ベトナムなどを迎えたことに端を発する。
 しかし,そうした中でも臭気分析による結核診断とか,免疫学的診断といった新たな技術やRFLP分析による分子疫学のテーマなどTSRUらしいテーマが出されており,それなりに興味深いものがあったことは一応の収穫と言えよう。


updated 03/09/05