積極的な取り組みを
−日本版21世紀型DOTS戦略体系図および事業要領解説−

結核研究所対策支援部保健看護学科長
小林 典子

はじめに

 保健所は結核患者が確実に服薬し治療を完遂するため、医療機関と連携をとりながら支援日本版DOTS戦略推進体系図する役割がある。平成12年、厚生労働省は「21世紀型日本版DOTS戦略」を発表し、課長通知「高齢者等に対する結核予防総合事業および大都市における結核の治療率向上(DOTS)事業について」において、DOTS事業を推進した。その結果、住所不定患者に対するDOTS事業が大都市の保健所を中心に展開され、入院中の患者への「院内DOTS」が普及した。さらにDOTS戦略を全国的に推進するため、平成15年2月、課長通知「今後の結核対策の推進・強化について」を出し、その中の「結核患者に対するDOTS(直接服薬確認療法)の推進について」の項目において、都道府県市に対して結核対策特別促進事業の優先事業として積極的な取り組みを推奨した。

事業の要点

 DOTS戦略では「服薬確認」を軸に、確実な診断、治療施設や薬剤の確保、治療の評価が行政の責任の下で包括的に行われる。今回の日本版DOTS戦略では、基本的な要素である「服薬確認」のモデルをいくつか提示し、地域や患者の背景・条件に応じた選択が可能とした。事業の要点として、@地域の特性に即した事業の立案、A患者のリスクに応じた服薬確認方法(DOTSタイプ)の選択、B評価指標を定めた評価体制の推進、が挙げられる。「日本版DOTS戦略推進体系図」を基に、事業の流れを説明する。

院内DOTSが前提

 日本版DOTS戦略の特徴の1つは、医療機関と保健所が連携協力して患者を支援することである。喀痰塗抹陽性患者の多くが入院治療するわが国では、「院内DOTS」による入院患者への服薬確認は効果的である。複十字誌287号で報告したとおり、年々、「院内DOTS」を導入する医療機関が増え、成果も上がっている。日本版DOTSは、「院内DOTS」を前提に、退院後の治療完遂のための服薬支援体制を示している。

服薬確認方法の選択

 服薬支援体制として、3段階の服薬確認方法(DOTSタイプ)を用意した。地域の特性や患者の利便性、治療中断のリスクに応じて、「外来DOTS」「訪問DOTS」「連絡確認DOTS」のいずれかを選択する。どれを採用するかは、DOTSカンファレンス(注1)において医療機関と保健所スタッフが十分協議検討し、退院後の具体的な服薬支援方法(いつ、だれが、どのように、服薬確認するのか)を計画する。【個別患者支援計画】

3段階の服薬確認

 DOTSタイプは、下記の3通りである。患者の状態の変化や地域の状況に応じて他のDOTSタイプへ移行することもあり、弾力的な運用が可能である。
外来DOTS病院・診療所の外来や保健所に毎日通って、服薬指導を受ける。住所不定や中断歴があるなど治療中断のリスクが高い患者を対象に行う。このタイプは、大都市の住所不定者を中心に、いくつかの自治体ですでに実施されている。
訪問DOTS週1〜2回以上家庭訪問をして服薬指導をする。訪問しない日は、自己管理。介護を必要とする在宅の高齢者や一人暮らしの高齢者で、退院後の治療継続に不安があるため退院ができない人等を対象とする。大都市以外の地域で今後の展開が期待されているタイプで、介護・福祉サービスが利用されていることも多く、地域の服薬支援者(注2)の活用が可能となる。
連絡確認DOTS月1〜2回以上訪問や電話等で服薬状況を確認する。施設等に入所している高齢者も含む。基本的には自己管理が可能な人たちだが、具体的な服薬方法や継続できなくなった時の対応等について、事前に保健師と話し合う。その上で保健師は月1〜2回以上本人と合意した方法で服薬状況を確認する。
 実際には、患者の状況に応じた様々なバリエーションが出てくるだろう。結核予防会渋谷診療所では、昨年12月に結核専門病院への通院が困難な高齢者や大都市に勤める若年者を対象にDOTS事業を立ち上げた。病院・保健所・診療所の看護連携を基盤に、患者に応じて外来DOTSと訪問DOTSを選択または併用する。

評価と見直し

 日本版DOTS戦略を効果的に推進するために、DOTSカンファレンスにおける個別患者支援計画の見直しと、コホート検討会(注3)における指標を定めた評価を定期的に実施する。評価のためには、主治医から毎月の受療状況、菌検査結果、投薬日数等の情報提供を受けることが必要であり、指定医療機関との連携はますます重要となる。事前に事業説明を行い理解と協力を得ると共に、コホート分析を用いた治療評価の結果を随時還元することが望まれる。

〜いくつかの注意点〜
注1)DOTSカンファレンス
 日本版DOTSは医療機関と保健所の連携を基盤としている。「患者を治す」という共通目標を持つ医療機関と保健所スタッフは、お互い遠慮せず積極的にカンファレンスに参加し問題の解決を図ること。退院前には必要に応じてソーシャルワーカー等を交え、具体的な服薬支援方法について検討する。複数の保健所が関与する医療機関では、定例的に開催する方法もある。
注2)地域服薬支援者の活用
 服薬支援者として、病院・診療所看護師、薬剤師、市町村保健師のほか、訪問看護師、在宅介護支援センター職員、ヘルパー、生活保護ケースワーカー等の福祉や介護保険関係機関の職員が考えられる。複数の地域支援者が関わる場合も考えられるので、保健所保健師はアセスメントを行った上で個別支援計画を作成し、円滑に服薬支援が実施されているか定期的に確認する役割と責任を持つ。服薬支援者は、家庭訪問をして患者の服薬を見届けるほか、必要に応じて服薬後の空き袋の確認、残薬数の確認を行う。
注3)コホート検討会
 保健所、医療機関、結核診査協議会委員が参加し、治療終了者の治療成績のほか、保健師の患者支援の評価、DOTS事業全体の評価を行う。特に治療中断や失敗事例については、詳細に症例検討を行い服薬支援体制の見直しを行うこと。また、対象者が少ない保健所では、医療圏または都道府県レベルで評価を行い、その結果に基づいて必要な措置を講じることが有効である。

おわりに

 「DOTSは都会の住所不定者に行われるもの、一方的で管理的なものと思っていたが、患者を治す最も優れた方法であり、患者の実情に応じて、患者と共に取り組むことが可能であることがわかった」。当研究所研修に参加した保健師の声である。研修受講前、「DOTSという言葉を知っている」と答えた保健師は94.6%いたが、研修終了時点で88.5%が「DOTSに対する認識が変わった」と答えた。また、保健所がDOTS事業を導入するにあたっての課題で一番多かったのは、マンパワー不足と予算不足であった。ほかに、管内の医療機関で院内DOTSが導入されていないことや、保健所業務のなかでDOTSの優先順位が低いこと、保健師の意識改革が挙げられた(平成14年度結核研究所保健看護学科基礎4日間コース参加130名)。
 結核対策特別促進事業の優先事業として、日本版21世紀型DOTS戦略に取り組むことで、上記の課題はいくつかクリアできるだろう。保健所の役割である「治療成功に向けた患者支援」を推進するために、できるだけ多くの県市がこの事業に取り組むことを期待したい。


Updated03/08/08