横浜発,広げようDOTS治療と服薬支援
〜第2回全国DOTS推進連絡会議



 「結核治療の基本はDOTS,確実な服薬を!!」をスローガンに,DOTS治療と服薬支援の推進を図る「全国DOTS推進連絡会議in横浜(主催=横浜市,共催=結核予防会結核研究所,後援=厚生労働省健康局結核感染症課)」が平成13年11月30日横浜市健康福祉総合センターで行われた。
 午前第1部は,厚生労働省健康局中谷比呂樹結核感染症課長による開会の挨拶から始まった。挨拶の中で氏は,平成12年9月に公表された結核発生動向調査年報の集計結果を元に,「結核罹患率の増加傾向はようやく終わった。しかし年齢別・地域別に見て,これからも増加していく要素はなくなっておらず,慎重に対策を講じる必要がある」と述べた。さらに,「保健所をシステムの中核へ取り入れたDOTS戦略を,各都市へ拡大していくことができないだろうか」と提案した。

 続いて,結核高まん延地区「寿地区」を抱える横浜市が先駆的に行ってきた,寿町勤労者福祉協会診療所(寿診療所)での外来DOTS,南横浜病院での院内DOTSについて,佐伯輝子寿診療所長,並びに石川節子国立療養所南横浜病院婦長よりそれぞれ報告があった。(施設の現地見学についてはこちらをご覧ください)
 寿診療所では,主に南横浜病院を退院した寿地区の結核患者に対して外来DOTSを実施している。本診療所の患者は,ほとんどが日雇い労働者であり,この診療所の存在意義は,患者の生活保護・治療保護という2つの軸を生活安定の要としていることであるという。また,多くの患者がアルコール依存症を中心とした合併症を患っているため1回に飲む薬剤が多めである。来所しない患者がいた際は,その人の今日の健康状態を常に考え,必要があれば保健所スタッフが訪問する等,責任をもってケアしている。大事なのは患者の根気とスタッフの意思統一。治療を続けることの意味を理解してもらう際「最低これはしないともう後がありませんよ」ではなく,「これが結核という病気と闘うための最善の方法なんですよ」と伝えている。また,南横浜病院より週に1度,医師,担当看護婦が1名ずつ派遣されており,入院治療から外来への移行もスムーズに行われている,などの報告があった。

 また,南横浜病院からは,1日1回の服薬は,分けて3回服薬するより忘れにくく,効果はどちらも同じなので前者で行っている。服薬の多い昼時だけ,看護婦を多く配属するというシステムを導入したが,今のところ特別な超勤,増員もなく行えている。
 DOTS1カ月終了時,患者が服薬に関しての自己管理ができるかどうかを,「あなたは○○できますか?」というチェックリストで自ら評価してもらい,これを参考にカンファレンスで今後の対処を考えている。
 看護婦はDOTSを「治療を見守ること」という意識でとらえ,「私はお手伝いしかできませんが,一緒に習慣を身に付けていきましょう」という姿勢によって,DOTSという同じ作業に立ち会う患者・スタッフ間の関係ができるのではないか,といった報告があった。
 午後からの第2部パネルディスカッションは,「DOTSの実践とその評価」と題して,まず病院の立場から,県立循環器呼吸器病センター酒井恵子婦長,慶應義塾大学医学部病院長谷川直樹医師の両氏から発表があった。循環器呼吸器病センターでは,DOTS導入を目指し具体的に検討を重ねているところであり,酒井婦長はその経過を報告。長谷川氏は南横浜病院で院内DOTS事業を立ち上げた経緯を説明した。また,行政の立場からというテーマで,横浜市感染症・難病対策課新堀嘉代子氏,大阪市保健所撫井賀代医師から,DOTS事業を円滑に行うために各市が行っている事業についての報告があった。新堀氏からは,横浜市のDOTS事業の全体像が紹介され,当事業は南横浜病院での院内DOTSから,寿診療所での外来DOTSにわたって,多くの機関と連携しながら行われているという説明があった。また撫井氏は,大阪市浪速保健センターにおいて3カ月に1回行っているコホート検討会について報告した。本検討会は保健センター所長・医師・保健婦・結核担当事務職員,地域指定医療機関医師,そして客観的な評価を行うための外部の結核専門医師から構成されており,新登録患者の治療状況及び保健婦業務としての患者管理の評価を行っている。この検討会を行い,継続的に評価を行ってきた中で,事例を共有化することで他ケースへの応用ができるようになったこと,初回本人面接の実施率,菌検査結果の把握率の向上といった効果があった。また,将来的な希望としては,地域の結核対策に協力できるために必要なデータを残したいと述べた。

会場からの質問に応える新堀氏(横浜市) 会場からの質問に応える新堀氏(横浜市)

 その後,質疑応答に入り,「病院全体でDOTSをやっていくためには?」「他の地域でも行うには?」という課題で,具体的なディスカッションが行われた。
 院内DOTSを導入するためには,病院全体で新しい体制を取り入れる必要があるが,その際,これから導入していく病院へ参考になる例があれば,という議題に関して,大阪府立羽曳野病院では,まず院内DOTSマニュアルを市・医師・看護婦の協力によって作成するところから始め,5病棟すべて統一してDOTS実施に至ったという事例が挙がった。DOTSカンファレンスで治療完了となった患者情報を,院内DOTSを実施している病院の現場スタッフにも伝えることで,スタッフのやる気につながるという報告もあった。
 外来DOTSへの連携という点で,新宿区からは病院で結核治療が完了した患者が分かった地点で,DOTナース,保健婦が退院前の段階で今後区役所保健所に来所して行うDOTについて指導しながら,退院後に迎えに行く,という確実な体制の報告があった。
 南横浜病院内科医長の河田兼光先生からは,導入を決定する折に緊急事態宣言がちょうど発令されたため,一気に導入へ踏み切ることができた,という報告があった。
 国立療養所東京病院からは,東京都からDOTS事業を結核対策特別促進事業として受けているが,行政から事業が認められたという自信と,現場でのやる気に繋がった,という例も発表された。

森結核研究所長の講評に,熱心に耳を傾ける参加者森結核研究所長の講評に,熱心に耳を傾ける参加者

 最後に結核研究所森亨所長より講評があった。森所長は,日本では他の先進国と異なり結核医療が公的機関との連携の下に行われているのは本当に一部の地域だけであり,DOTSを公的システムとして必要な地域へ導入していくことが今後の課題となってくるであろう,と指摘した。
 また,社会経済的弱者が塗抹陽性で発見される割合が高く,死亡率も高いことから,検診で患者を早期に発見する体制を作ること,さらに,このDOTS戦略が社会経済的弱者の結核対策から「ユニバーサルDOTS」へ発展することを提案して本会議は閉会した。

(文責編集部)


Updated02/04/05