大阪市の地域DOTS(ふれあいDOTS)の取り組み

大阪市保健所保健総務課結核対策係保健婦  有馬 和代 



はじめに

 最近の結核患者管理においては,結核患者を確実に治療終了に導く支援を行うことが重要とされており,入院時からの治療徹底を図る「院内DOTS」と退院後の継続服薬支援活動が,「大都市における治療率向上事業」(DOTS事業)として実施され始めています。大阪市も,平成11年9月から「あいりん」という高まん延地域でのDOTS(あいりんDOTS)を実施してきましたが,13年3月からも住所不定者以外の喀痰塗抹陽性患者に対して,DOTS事業を開始しましたのでその状況を報告します。

「ふれあいDOTS」実施の必要性と導入までの経過

 12年の結核の発生については,全国的に減少を示していますが,いまなお,大阪市の結核罹患率は人口10万対95.0で全国31.0の3倍の高さを示しています。この要因の1つには,大都市の共通問題として言われている住所不定患者の問題が挙げられており,住所不定患者が一番多い西成区の「あいりん」地域においては,12年には420人の新登録患者があり,罹患率は1,400と極めて高いため,この地域での住所不定患者を対象としたDOTSはすでに実施されています。
 しかし,大阪市においては,「あいりん」地域以外にも約170人の住所不定結核患者が発生しており,住所不定患者を除いた一般患者においても,罹患率が76.4と全国平均の2.5倍の高さを示しており,脱落中断率も5.6%と全国より高いことから,大阪市の結核問題は,「あいりん」対策と住所不定患者だけを対象とした対策では改善できない状況となっています。
 そこで大阪市は,この現状を打開し再興感染症である結核に対処していくために,13年2月「大阪市結核対策基本指針−STOP結核作戦−」を策定し,「10年間で結核罹患率を半減させる」という大目標に向け,「DOTSの推進」とDOTSを含めた患者管理の評価として「コホート検討会」の実施を進めています。

大阪市におけるDOTS事業の対象と方法

 「DOTS対策」においては,「院内DOTS」を実施している病院を退院した患者を対象として,次の2通りの方法で実施している。
「あいりんDOTS」…あいりん地域での結核患者を対象とし,服薬管理を行っている場所に患者が来所する拠点型DOTS
「ふれあいDOTS」…喀痰塗抹陽性一般患者とあいりん地域以外の住所不定結核患者を対象とし,訪問服薬支援者が患者の希望する場所に訪問する訪問型DOTS

「ふれあいDOTS」の実際

*入院中
@ 病院では服薬手帳を使用し,患者教育と服薬確認の習慣づけのための院内DOTSを実施します。
A 保健婦は,退院後も患者に確実な治療を行ってもらうために入院中から病院訪問を行い,信頼関係の構築に努めます。
B 保健所は,菌陰性化に伴い病院側と共にカンファレンスを実施し,退院後の服薬支援のために患者情報の共有化を行います。
C 患者の退院が決まれば,保健婦は患者面接を行い「ふれあいDOTS」について説明し患者の同意を得ます。
*退院後
@ 保健センターは,通院医療機関に事業の説明を行い,主治医に服薬支援の協力をお願いします。
A 保健婦と訪問服薬支援者(DOTS看護婦)の同伴訪問により患者への服薬支援が開始されます(週4〜1回)。
〔保健所の役割〕 
・入院から通院に治療継続できるためのマネージメントとカンファレンスでの情報を保健センターに伝達すること。
・「ふれあいDOTS」の説明と患者同意をとること。
〔保健センターの役割〕
・通院医療機関との連携
・訪問服薬支援者との連携などの主体的な患者管理
〔訪問服薬支援者の役割〕
・患者の服薬支援を行うこと

「ふれあいDOTS」の現状 (平成13年3月1日〜11月1日)

 院内DOTSは,大阪府下での結核病床を有する15カ所の病院の中,6病院で実施されており,うち入院後,ふれあいDOTSへ繋がっている医療機関は2病院あります。この間の「ふれあいDOTS」対象者は,105名,うちDOTS実施者は,80名(実施率76.2%)となっています。再治療者,耐性結核及び合併症を有する患者はDOTS実施者の67%を占めており,DOTSに繋げている患者にはハイリスク者が多い状況があります。同意率においては,医療機関により差があり,DOTSカンファレンスが実施されていることなど連携がとれている病院では,93%と高くなっています。そして,保健婦による喀痰塗抹陽性患者の2週間以内の訪問率は,70%なのですが,同意がとれた患者の92.5%には地域担当保健婦が病院訪問等を行い本人面接が実施されており,同意がとれなかった患者に対しても,患者管理の一環の中で服薬支援を行っています。

「ふれあいDOTS」事業実施・継続の条件とは

 「ふれあいDOTS」は,患者本人が確実に継続内服できるように支援する事業ですが,この事業の実施には,患者本人が結核治療に対していかにアドヒアランスを高めることができるかということが非常に重要となります。そのためには,結核に対する患者教育と服薬確認の習慣づけがなされ,継続内服のコンプライアンスを高めるための「院内DOTS」と適切な患者支援を行うために,医療機関と保健所とで情報の共有ができる「連携会議」,さらには患者が安心して結核の治療を継続し終了できるように,保健婦による病院訪問や服薬支援などの「患者支援の充実」が,キーワードであると感じています。
 今後は,この「ふれあいDOTS」事業をより効果的に推進していくための,事業の効果や内容の検証を含めた事業評価を行っていかなければいけないと考えています。


Updated 02/02/28