結核緊急実態調査結果について



                       結核研究所対策支援部企画科長(兼)医学科長
                                              星野斎之



 昨年度に行われました結核緊急実態調査の結果の概要を報告します。本調査は,わが国の結核まん延状況と結核対策の現状に関する基礎資料を入手することを目的として行われました。なお,本調査報告の詳細については,結核研究所のホームページに掲載されていますので,そちらもご覧下さい。


結核死亡者調査
 保健所が把握していた平成10 年(1998 年)中の結核死亡者数(結核として登録されていた人の中からの結核死亡)は1,826 名であり,同年の人口動態統計における結核死亡者数は2,795 名であった。これから推定届出率(保健所より報告された結核死亡者数を人口動態統計上の結核死亡者数で割ることにより算出した発生届出率の推定値)は,65.3 %となった。年齢別では,60 〜70 歳代の高齢者で推定届出率が低く,病型別では,呼吸器結核の推定届出率は65.5%であり,粟粒結核の推定届出率は27.9%と低かった(図1)。
 この結果から,結核による死亡と診断された者について,医療機関から保健所への結核患者届出が徹底されていない可能性が示された。

結核登録者調査
マル初(予防内服対象者)
 平成10 年に登録されたマル初患者から,その20 %を無作為に抽出して得られた1,519 名について調査検討した。発見方法では,10 〜14 歳では定期健診による発見が多かった(57.5 %)が,その他の年齢では定期外健診発見が多くを占めた(0 〜9 歳では60%前後,15 歳以上ではほぼ90 %)。BCG接種率は全体で73.1 %であったが,低年齢層で低くなり,特に0 歳児では79.5 %が未接種であった。感染源が特定された者は68.5 %で,年齢別では15 〜29 歳で高く,およそ9 割に及んだ。感染源が特定された1,041 名について,感染源は,0 〜14 歳では家族(81.9 %)が多く,15 〜19 歳になると友人(28.4 %)が多くなり,20 〜29 歳では職場関係(35.1 %)が多く,次いで院内感染(20.4 %)であった。感染源の呼吸器症状の期間は平均2.7 カ月,その85.2 %は喀痰塗抹陽性(その他の菌陽性は6.7 %)で,61.2 %が学会分類のT型またはU型であった。感染源のうちなんらかの薬剤耐性が判明した者は143 名(13.7 %)あり,うちINHのみ耐性が27 例に見られた。マル初適応と判断した根拠(複数回答)は,定期健診発見者では391 名中376 名(96.2 %)がツ反結果であった。定期外健診発見では,感染源との接触が1,014 名中904 名(89.2 %)と最も多く,次いでツ反結果(73.3 %)であった。予防内服の適応基準を満たしているか否かでは,全体の22.8 %が基準を外れており,その割合は低年齢層でより大きかった(0 〜4 歳で64.8%)。使用薬剤はINH が98.5 %,RFP が0.6 %であった。服薬状況では84.6 %が服薬を完了し,11.3 %が服薬を中止していた。理由を見ると,0 〜4 歳では医師の指示による中止が76.3 %と多いのに対し,20 歳代では自己中止が60.6 %を占めた。調査時点で結核発症が確認された者は0.4 %あり,全員感染源との接触が特定されていた。
 これらの結果から,定期外健診による予防内服対象者の発見,親にあたる年齢層の結核対策,職場や医療機関における結核対策,感染源の薬剤耐性に関する情報把握の重要性などが示唆された。また20 歳代の予防内服対象者に対する服薬支援の必要性が示された。

0 〜14 歳の結核登録者
 平成10 年に登録された0 〜14 歳の患者全員にあたる268 名を対象者として調査した。このうち54 名(20.1 %)は結核ではない(転症例やマル初)ことが判明したので除外し,残りの214 名を分析の対象とした。年齢分布では0 〜1 歳が全体の33.6 %を占めた。発見方法では,医療機関受診が44.9 %,定期外健診(家族健診)が35.5%であった。家族健診は0 〜9 歳で40 %を占めたが,10 〜14 歳では21.4 %と少なく,学校健診が24.3 %と多くなった。登録時の患者分類は肺結核が61.7 %を占め,そのうち塗抹陽性は6.1 %,その他の菌陽性は17.4 %であった。感染源が特定された者は119 名(55.6 %)であり,感染源ありの割合は,0 〜4 歳では69.4 %と大きかったが,高齢になるに従って少なくなった。感染源の種類では父親(40.3 %)が最も多く,次いで祖父母(24.4 %),母(21.0 %),他の家族(8.4 %)の順であった。感染源の呼吸器症状の期間は平均4.1 カ月,91.6 %に排菌が確認されており,学会分類ではT型とU型をあわせて74.8%を占めた。薬剤感受性が判明した59 名(49.6 %)中,49 名(83.1 %)が全剤感性であった。感染源との接触状況では,両親が感染源の場合は100 %近く,祖父母や他の家族では約40 %が同居であった。結核罹患に関する事項については,「以前家族・友人が結核になったことがある」が30.8 %で最も多く,次いで「ツ反陽性でBCG無し」が12.6 %,「以前検診でツ反強陽性で要精密検査」が8.9 %,「化学予防あり」は7.9 %だった。治療方式では95.3 %で標準化療方式が実施されており,HRZを含む治療は19.6 %,HR含みZなし3 剤は18.7 %,HR2 剤は57.0 %であった。治療成績では治癒は15.9 %,治療完了は70.1 %で,治療成功率は86.0 %であった。治療中断は10 〜14 歳で14.3 %,治療内容変更ありで22.2 %と高かった。
 これらの結果から,マル初と同様に定期外健診(特に家族健診)の重要性,親にあたる年齢層の結核対策の重要性が示唆された。また,「結核患者との接触歴のある者」や「ツ反陽性でBCGなし」の者からの発病予防の可能性,10 〜14 歳の患者における高い中断率などが,今後の課題として挙げられる。

15 歳以上の結核登録者
 平成10 年に登録された15 歳以上の結核患者から,その20 %にあたる8,128 名を無作為に抽出し,検討した。そのうち909 名(11.2 %)は,転症例(非定型抗酸菌症や肺がん,肺炎など)であることが判明したので除外し,残りの7,219 名を分析の対象とした。全体の54.1 %は60歳以上であり,男女比は1.86 :1 と男性が多かった。そのうち77.9 %は医療機関で発見されていた。この割合は高齢になるに従って高くなり,80 歳代では91.2 %であった。医療機関での発見以外では,15 〜19 歳は学校健診による発見が28.9 %と大きく,20 〜30 歳代では職場健診が23.7 %,20.9 %と大きかった。登録時の生活状況を見ると,家族との同居は,71.7 %と最も多く,一般病院入院中は4.2 %,精神病院入院中が1.4 %あった。薬剤感受性検査では,INHとRFPの2 剤に耐性(不完全耐性も含む)である多剤耐性は,喀痰塗抹陽性初回治療では4.8 %であったが,喀痰塗抹陽性再治療では12.7 %であった。発病に関連したと思われる要因では,「結核患者との接触」は全体で9.4 %だが,若年層に高率で,15 〜19 歳では21.1 %,20 歳代では20.6 %,30 歳代では16.0 %であった。その他の発病に関連したと思われる要因では「糖尿病」,「胃切除」,「免疫抑制剤の使用」,「悪性腫瘍」などの合併症が挙げられ,男の壮年層(50 歳代,60 歳代,40 歳代の順)で多かった。定期健診の長期未受診は9.1 %あり,年齢別には50 歳代12.7 %,40 歳代10.7 %,60 歳代8.2 %の順だった。15〜39 歳結核患者1,418 名中で,感染源が特定されたのは13.7 %であった。特定される割合は,高年齢者ほど低くなった。治療方式については,HRZ含む治療は,31.5 %,HR含みZ無し3 剤は47.1 %,HR2 剤は16.2 %であった。喀痰塗抹陽性初回治療の者では,HRZは54.8 %に処方されていたが,高齢者では少なく,80 歳以上で22.9 %であった。治療成績では,喀痰塗抹陽性初回治療者でHRZを含む治療を行った1,217 名について見ると,治療成功率は82.1 %となった。標準化療方式で治療された喀痰塗抹陽性者2,114 名で見ると,治癒は46.6 %,治療完了は29.8 %で,治療成功率は76.4 %であった。なお,治療失敗は1.4 %,治療失敗疑い0.3 %,治療中断5.7 %,結核死5.4 %,非結核死4.9 %,死因不明死2.6 %,その他3.2 %であった。なお,治療成功率は年齢で異なり,40 歳未満では85 %を超えていたが,70 歳代では68.7 %,80 歳代では56.9 %と低下し,死亡が増加した(図2)。治療中断は全体の12.1 %であった。治療中断率が高かったのは生活保護申請中(25.8 %),住所不定・ホームレス経験あり(24.6 %),肺外結核(20.2%)等であった(表1)。接触者検診は,全体の73.2 %で実施されており,喀痰塗抹陽性初回治療者では87.0 %,再治療では81.3 %であったが,菌陰性他では68.1 %であった。
 これらの結果から,高齢者の結核診断における医療機関の役割,入院中の発病による院内感染対策,薬剤感受性検査の精度,治療内容(特にPZAの使用),高齢者の高い死亡率,特定の背景を有する場合の高い治療中断率などが今後の検討課題である。なお,20 〜30 歳代における結核患者との接触歴は,この世代の接触者健診の重要性を示唆している。

                        

慢性排菌患者調査
 平成10年末において過去2年以上前から登録されており,しかも最近1年以内に排菌があったとされている者全員1,234名を対象として調査を行った。これは,平成11年(99年)末,活動性結核患者48,888 名の2.5 %を占めた。性比は3.7 対1で男性に多く,年齢では,50 歳代が最も多く23.7 %を占めた。登録年度別患者数では,平成9年(97年)登録者が23.9 %を占め,最も多かった。平成11年中の菌検査結果では,多剤耐性菌INHとRFPの両剤の耐性結果の情報が得られた749 名中464 名(61.9%)に認められた(図3)。慢性排菌化したと思われる要因の上位は,「本人の不規則服薬,自己中断」が38.1 %,「感性薬剤の1 剤ずつの追加」が29.5 %,「糖尿病」が21.0 %,「副作用による服用の中断」が19.4 %であった(図4)。治療経過を観察した2 年間(平成10 年〜11 年)について,平成11年後半に持続的な排菌を確認された者は51.6 %,菌陰性化後に再排菌したと思われるものは10.9 %,その他の培養陽性が21.9 %であった。治療状況では,平成11年末時点で治療中の者が82.8 %,治療終了し経過観察中の者が5.1 %,治療中断者が4.0 %,結核死したものが0.6 %,非結核死したものが0.6 %,死因不明死が0.7 %,その他が5.8 %であった。入院中の者は44.8 %,外来治療中の者が37.7 %,その他・不明が17.5%であった。
 これらの結果より,長期にわたり菌陰性化ができない例に,薬剤耐性が多いことが示された。また,慢性化させた要因の予防対策(特に不規則治療,不適切な治療内容の変更,薬剤感受性検査の励行と情報把握)の重要性が示唆された。

                      

ツ反検査及びBCG接種に関する調査
市町村調査
 11年度までの過去3年間に実施されたツ反検査とBCG接種は,出生数にほぼ匹敵する件数で行われており,受診率と接種率は高い。初回ツ反検査の実施年齢分布では,6 カ月未満で50.3 %に行われており,1 歳以前に行われている者は80.5 %に達するが,2 歳になってから接種を受ける者も4.3 %いた(図5)。市町村区分別に見ると,6カ月未満の接種は大都市(70.0 %),町村(34.6%)と,早期の接種は大都市で多く,町村でやや少ない。

BCG接種技術評価調査
 BCG針痕数は,1 歳6 カ月児健診受診者は12.5 ±5.5 (平均値±標準偏差,以下同じ),3歳児健診受診者は10.7 ±6.3 と後者に少ない傾向が見られた。また,地区別の平均針痕数にはかなりのばらつきが見られ,最大の15.5 ±3.9 から最小が5.7 ±6.2 であった(図6)。BCG接種後の異常反応(以下,異常反応)は34 名(2.2 %)に見られ,その内訳は,3カ月以上局所が乾かなかった(1.8 %),接種側腋窩リンパ節が腫れた(0.1 %),その他(0.2 %)であった。BCG未接種であった46 例の理由を見ると,「当日体調が悪くて延期され,そのままになった」18 名,「知っていたが都合が悪かった」7名,「ツ反応が陽性だった」5名,などがあった。
 これらの結果から,BCG接種時期と接種技術のばらつきが検討課題として示された。


 以上,本調査より日本の結核のまん延状況や結核対策の現状の一端を見ることができた。最後に,本調査に協力して下さったすべての方々に心から感謝すると共に,調査結果が本邦の結核対策に資することを祈ってこの稿を終わります。


Updated 01/07/04