すべての入院患者にDOTSを!

今、最も効果的な結核対策システムとして世界中で実施されているDOTS 。日本でも、ここ数年、大都市を中心に保健所が福祉や病院・診療所と連携し、患者の生活支援と直接服薬確認を行うなど、治療中断を防ぐため、様々な取り組みが試みられています。
患者を確実な治療に導くため、入院中からも目の前で服薬を確認するという、院内DOTS に取り組んでいる3つの病院の実施例を紹介します。


患者さんの服薬を最後まで確認(国立国際医療センターにて)


国立療養所南横浜病院 副看護部長 市橋富子

1年半の経験から

 当院は、197床の結核病床を持つ都市型結核病院であり、横浜市の簡易宿泊所や住所不定者等が集中している「寿地区」の結核患者の90%を収容している。そのうちの約30%がアルコール依存症を合併しており、入院中に飲酒をしたり、けんかをしたりと入院生活に馴染めず、排菌したまま自己退院に至っていたケースもあった。
 日々、看護している看護婦にとって、いかに自己退院をなくし、治療中断を防止するかが課題となっていた。
 抗結核薬は、治療開始後2週間確実に内服ができていれば、感染力は4〜5%にまで減少すると言われている。平成11年2月よりDOTSを開始し、入院した患者全員に治療開始後1 カ月間は服薬確認を行っている。
 以下、当院のDOTS について述べる。

導入に至った背景

 結核の治療は、規則正しく内服してもらうことが治療成功のカギであると言われ、治療中断を防ぎ、薬剤耐性を作らないためにも看護婦が服薬の確認を行う必要があると日頃より医師から講義を受けていた。そのような時、抗結核薬による治療を開始後、6カ月を経過しても排菌の止まらない患者がおり、渡されていた薬を服用していなかったことが分かった。そのため、服薬の確認の必要性を再認識し、その病棟から、平成11年2月より院内でのDOTSを開始した。その後、病棟内での学習会や病棟間の情報交換で、DOTSに対する認識を深め、開始時期に多少の差はあったが、平成12年1月より、全結核病棟で実施している。

対象者

 入院後、抗結核薬による治療を開始したすべての患者が対象である。治療開始後、1カ月間の服薬を確認した後は自己管理になるが、その後も服薬確認の必要な患者もいる。臥床患者で自力での服用が困難な患者、日頃のかかわりの中で、自己管理は難しいと判断した患者、横浜市中区の寿診療所でのDOTSに導入するために服薬の確認を継続する患者などである。また、寿地区の患者は、アルコール依存症を合併していることや、90%以上が生活保護を受けていることから治療終了まで、服薬の確認を行うこともある。

具体的な方法

(1)抗結核薬の治療開始後、1カ月間はすべての患者が薬を飲み込むまで確認する。
@ 治療開始時に、主治医が院内DOTSについて説明する。
A 主治医が説明した後、看護婦が「療養生活のしおり」とオリエンテーション用紙を用いて、その方法について説明する。
B 薬剤師が並行して、服用する結核薬について服薬指導を行う。
C 時間を決め、看護婦が患者のベッドサイドに行き配薬し、飲み込むまで確認する。または、処置室で同様に確認する。
D 服用の時間は、勤務者の多い昼食後1回にしているが、胃への負担、年齢などにより、3回にしている患者もいる。
E ベッドサイドで確認するのか、処置室で確認するのかは、各病棟の状況を考慮し、病棟で決めている。
(2)1カ月間の確認をした後、自己管理にするか否かは、カンファレンス、受持看護婦の面接などにより、「自己管理チェックリスト」で評価し、決定する。
(3)自己管理となった場合には、1週間に1回、または2週間に1回、看護婦と一緒に残薬数の確認を行う。
(4)自己管理後も、残薬数の確認時、数が合わなかったり、塗抹陰性であった患者が、再度、塗抹陽性になった場合には、主治医とのカンファレンスを持ち、再度説明した後、服薬の確認を行っていく。

成果

 平成11年2月より院内DOTS を開始し、平成12年10月末までに、678名の患者に実施した。
 導入時、看護婦からは「そこまでしなくてもよいのではないか」、「寿地区の患者だけでよいのではないか」、「患者の人権を無視することにならないか」などの声もあった。

また、患者からも「自分で飲めるのに、どうして看護婦の前で飲まなくてはならないのか」という声も聞かれた。しかし導入後は「見ていてもらえて安心だ」、「薬の重要性がしっかり理解できた」、「薬を飲んでいれば治る病気だと分かった」など、治療に対して前向きな反応が見られている。看護婦も、結核は「規則正しく内服する」ことが治療のカギであることを再認識し、治療継続、治療終了に向けての働きかけができるようになった。
 アルコール依存症の患者は、入院中飲酒することもあるが、服薬に対する拒否や脱落した患者はなく、施行できている。

今後の課題

 現在は、各病棟ごとにオリエンテーションを行っているが、院内で統一したオリエンテーションを行い、標準化をしていけるように検討している。
 また、自己管理にしていく時の基準も統一し、患者への指導につなげていきたい。
 結核の治療においては、患者教育が重要なウエイトを占める。教育には、患者の個別性をとらえてのかかわりが求められるが、看護婦一人一人が、その自覚を持ち、治療の終了に向けて療養生活を支援できるよう、今後も取り組んでいきたい。


(患者教育用資料)
一番大切なのは薬を飲みつづけることです!

 結核は自覚症状がなくなったからといって決して治っているわけではありません。それは薬の力によって結核菌の力がちょっとだけ弱められているだけなのです。結核菌は体の奥に入り込んで活動できるチャンスをねらっています。だからもし、薬を飲むのを止めてしまえば結核菌は再び活動を始めます。その上、しっかり威力を増して結果的に結核菌の手助けをすることになってしまいます。結核菌は風邪の菌などと違ってしぶといのです。ですから、風邪薬と違い長い間しっかりと飲み続けなければなりません。あなたの根気と努力が大切なのです。
 飲み始めて1カ月は特に大切な時期です。しっかり内服すればかなり感染力が落ちると言われています。確実に飲む週間をつけるためにも、当病院の方針で昼食後(12時15 分〜30分頃、多少前後することもあります)に1カ月間、しっかり内服するまでを看護婦が確認させていただきます。

実際にお薬を飲むにあたっての豆知識

なぜ結核の薬は何種類も飲まなければならないの?

 1種類の薬だけでは、中にはもとからその薬では効かない菌がいます。その薬で効く菌は減っていきますが、一方効かない菌は増えていきます。そうなるとその薬に強い菌(耐性菌)ばかりになってしまい、結果としてその薬は効かなくなってしまいます。それを防ぐために何種類もの薬を使ってあらゆる角度からあらゆる結核菌をやっつけようというわけです。
菌を殺す薬:イスコチン、リファンピシン、PZA
菌が増えるのを抑える薬:ストレプトマイシン(注射)、カナマイシン(注射)、エプトール

なぜ結核の薬はまとめて1 回で飲むの?

 結核の薬を分けて飲んだ場合と1 回に飲んだ場合で、薬の効き目や副作用を比べても差がありませんでした。そのため、薬を飲む習慣づけをし、飲み忘れを防ぐために昼1回に飲むことになっています。ただし、薬を飲んで胃がもたれたり吐き気がしたり食欲がなくなったりした時には分けて飲むこともできますが、その時は看護婦に必ず相談して下さい。

途中で薬を止めてしまうとなぜそんなにいけないの?

 例えば風邪薬なら、風邪をひいた時に飲んで風邪の症状がなくなれば止めても、また風邪をひいたら同じ薬を飲んで治すことができます。しかし、結核の場合は症状がなくなっても徹底的に治す前に薬を止めてしまうと、菌が抵抗力をつけてしまい、今まで効いていた薬が効かなくなってしまい治すのが難しくなってしまいます。

* 河田先生より一言
 「一番最初に使うお薬は一番効き目のあるお薬」です。いったんお薬を止めてしまうと今まで効いていたお薬が効かなくなってしまいます。だからこそ飲み続けることが大切なのです。

結核の薬はどれくらいの期間飲み続けなければならないの?

最低でも9カ月は飲み続けます。病状により個人差はあります。

もし薬を飲み忘れたらどうしたらいいの?

その日のうちでしたら気付いた時、すぐに飲みましょう。
不安な時は、看護婦に相談して下さい。

薬を飲み忘れない工夫をしましょう。

*薬は目のつくところにおきましょう。
*毎日決まった時間に飲む習慣をつけましょう。翌日の分は前日のうちに用意しておきましょう。
*自分にあった飲み忘れない工夫を考えましょう。
 ・ 飲み終えたらカレンダーに○をつける。
 ・1カ月分配られた時に薬の包装袋に日にちを記入して確認する。

 わからないことや困ったことがありましたら、ご遠慮なく看護婦にお尋ね下さい。皆さんが1 日も早く元気になり退院できることを願っております。

〜西5病棟看護婦一同〜






 

Updated 01/04/27