結核とは?

結核の基礎知識

ページ先頭

1. 結核とは

 結核とは「結核菌」という細菌が直接の原因となって起こる病気で、結核菌が起こす「おでき」のようなものと考えていいでしょう。最初は炎症から始まります。肺ならば肺炎のような病気です(肺の表面近くに病巣ができれば、炎症の結果生じた浸出液は肺を包んでいる胸膜からしみ出して胸膜炎となります)。結核菌は肺に巣食うことが多いのですが、人体のいろいろなところ(臓器)にも病気を起こします。

 初期の炎症が進むと、やがて「化膿」に似て組織が死んで腐ったような状態になります。この状態の時期が肺結核ではかなり長く続き、レントゲンなどに写る影の大半がこの状態の病巣です。その後死んだ組織がどろどろにとけて、気管支を通して肺の外に排出されると、そこは穴のあいた状態になります。これが空洞です。空洞の中は空気も十分にあり、肺からの栄養もあるので結核菌には絶好のすみかとなり、菌はどんどん増殖します。空洞をもった結核患者が「感染源」になりやすいのはこのためです。 このような病巣からの菌が肺の他の場所に飛び火したり、またリンパや血液の流れに乗ったりして、他の臓器に結核の出店を作ることもあります。こうして結核は肺全体、全身に広がって行きます。そして最後には肺の組織が破壊されて呼吸が困難になるとか、他の臓器の機能が冒されるとかして生命の危機を招くことになります。

2. 肺以外の結核の出店

 結核は全身のいろいろなところに病気を作るのが特徴です(肺外結核)。おかされる臓器としてはリンパ節が最も多く、とくに多いのが首の脇が腫れるもので、昔は「るいれき」と呼ばれていました。また骨や関節にもできますが、背骨にできるのが「脊椎カリエス」です。次に腎臓(腎結核)が多く見られます。場所がらから膀胱などを巻き込むこともよくあります。このほか結核は喉頭、腸、腹膜、また眼や耳、皮膚、生殖器にくることもあります。いちばん怖いのは脳にくる場合です。菌が血液の中に入って全身にばらまかれ(このような状態が「粟粒結核」です)、脳を包んでいる膜(髄膜)にたどり着き、そこに病巣を作ることによって起こります(結核性髄膜炎)。化学療法のない時代には粟粒結核や髄膜炎はただちに死を意味していました。今日では粟粒結核は早く発見すればかなり助かりますが、髄膜炎は今でも3分の1が死亡、治っても半数近くは脳に重い後遺症を残します。肺外結核は今日では結核患者全体の約7%に見られます。

3. 結核のうつり方

 私たちが普通に会話をしているときにも、肺の奥から目に見えないシブキが吐き出されます。「ゴホン!」と1回咳をすると、ふつうの会話のときの5分間分にあたる大量のシブキが放出されるといいます。たまたまこの人が肺に結核の病巣を持つ人であった場合には、このシブキの中に結核菌が含まれていて、これが近くにいる人に吸い込まれると感染を起こすのです。このシブキの中の結核菌は、早く吸い込まれないと日光のなかの紫外線に殺されてしまいます。ですから、結核感染は、検査で菌が痰の中に大量に証明される人が咳をしている場合に、そのそばにいる人(家族とか親しい友人とか)に対して起こることが多いのです。食器などの物を介して結核がうつることは決してありません。

4. 結核の感染と発病

 結核菌が肺に入って増殖を始めると、肺にはまず軽い肺炎のような変化が起きます。同時に肺のリンパ節が腫れるようなことも起きますが、これらの変化は軽いので、たいていは気づかれないのが普通です。そのうちに人間の身体のほうに結核に対する「免疫」、つまり抵抗力が出来あがります。こうなると、人体のほうが結核菌よりも強くなるので、出来かかった病巣は治り、結核菌は抑え込まれてしまいます。結核菌が肺に侵入してから2~3カ月までにこのようなことが起こります。

 しかし話はまだ続きます。抑え込まれた結核菌はそのまま殺されたというわけではなく、肺の中で冬眠状態に入るのです。そして人体の側の免疫力が下がることがあれば、いつでもまた暴れ出します。これが結核の「発病」ということになるのです。成人の結核はこのようにして感染を受けてから1年以上、長い場合には何十年も経ってから、菌が人の「弱み」に乗じて暴れ出した結果起こる病気です。

 時として感染直後に十分な免疫の出来にくい場合があると、初期の病巣がそのまま進行して病気になることもあります。赤ちゃんや子供の結核の大部分、青年がかかる結核の一部はこのようにして発生します。

5. BCG

 ジェンナーが牛の天然痘ウイルスを人体に植えて人に免疫をつけたのが天然痘(ほうそう)の予防接種でした。同じように毒力をぐっと弱めた結核菌を接種して、軽い結核のような反応を局所に起こさせておき、本当の結核菌が後からきた場合に対抗する免疫をつけておく、というのがBCG接種のねらいです。BCGは特に子供の結核の予防に有効なことが証明され、しかも最も安全な予防接種として世界で広く用いられています。日本では生後4~6か月までに1回受けるように勧められています。

6. ツベルクリン反応検査とQFT検査

 結核菌の感染を受けると、病気になる、ならないとは関係なく、人体には結核に対する免疫、つまり抵抗力ができます。 このような人に結核菌のある成分を注射しますと、人体は結核菌が侵入したと思って敵対的な反応(アレルギー)を起こします。これを皮膚で起こさせたのがツベルクリン反応です。すなわち「結核菌のある成分」がツベルクリンで、正式には「(精製蛋白誘導体)」というタンパク質です。 これを少量水に溶かして皮内に注射すると、アレルギーのある人、つまり結核の感染を受けた人では徐々に注射部位が赤く腫れ、しこりが触れるようになり、2日目に最も強くなります。アレルギーのない人、つまり結核菌に感染したことのない人ではほとんど反応はありません。このように結核のアレルギーの有無で、結核菌に感染したか否かを判定することができるのです。なお、近年は結核菌群と一部の非結核性抗酸菌に特異的な抗原を用いた結核感染の診断方法が開発され、BCGによるツベルクリン反応と結核菌感染によるツベルクリン反応が鑑別可能になりました。詳細はテーマ別目録の「結核感染の診断」をご覧下さい。(下線部はホームページ委員会が加筆致しました)

7. 結核集団発生の舞台

 結核の集団感染といえば、家族からうつされた子供が、学校で何人かの友人にうつすとか、塾の教師が生徒にうつすとか、子供の世界に多かったものです。ところが最近は、この集団感染の役者が子供から成人へかわってきています。
かつて(1950年頃) は20歳といえば、もう半分以上が自然陽転、つまり結核菌に感染していました。それより上の世代はというと感染を受けた人がほとんどで、日本の成人はこれ以上、別の結核菌に感染することはなかった、だからあらたに結核菌に感染するのは、感染を知らない子供たちだけだったのです。ところが今は、中年の人でも結核に未感染のひとが大多数ですから、結核菌に会えば感染(へたをすれば、そのまま発病も)します。そのため集団感染の舞台も、学校から普通の職場に移っているのです。

 日本の社会を「結核」という眼鏡で見ると、既感染(胸に菌を持つ)と未感染という2つのグループに分けられます。この2群の同居関係が続く限り、「既感染グループでの発病→未感染グループでの感染・発病」という危険がいつもある、というわけです。

 集団感染の予防には日頃からの健康チェックと早期発見、そして集団生活の場で結核の患者が1人でも出たら、その周囲の人々の検診や観察(「接触者検診」)が重要です。

8. エイズと結核

 エイズは(ヒト免疫障害ウィルス)というウィルスによって起こる病気で、 1980年の初めに発見されたころにはもっぱら男性同性愛者の間で感染する変な病気と考えられていました。その後、結局は血液などの体液成分を介して感染する病気、もっと具体的には性病に近いものと考えられるようになったことはご存じのとおりです。この病気の特徴は、感染してから障害が出てくるまでに1,2年から何年という時間がかかること(ただし結核と違い 10年、15年後にはほぼ全員に出る)、障害の内容は、何か他の病気にかかりやすくなるという「免疫障害」である、ということです。ここでいう他の病気とは、普通の人ならかからないような、ありふれたカビや原虫、ウイルス、細菌による病気が中心です。これらは普通の人にとりついても病気を起こさない、おとなしい微生物なのですが、HIV感染が進み、免疫が低下してくると病気を起こすのです。このような状態の人が、もし結核の感染を以前に受けて菌を体内に宿していたとしたら、あるいは新たに結核菌の感染を受けたら、第2問で説明したように、菌は暴れ出し、思いのまま増殖して病気を起こすのです。こうして結核とエイズとは「呪いのデュエット」を歌い始めます。

 1984年、結核が日本の3分の1に減っていた米国で結核の逆転上昇が始まりましたが、その後の増加分の3割はエイズのせいといわれています。またHIVも結核も多いアフリカではこのために「結核爆発」という悲惨な状況が展開されています。結核患者の半分がエイズ、またエイズ患者の3割が結核で死亡するような事態が方々で起こっています。しかも程度の差こそあれ、もともと結核の多いアジア諸国にもこの波がひたひたと迫っていることに注意しなければなりません。

9. 結核菌と結核菌の検出

 結核菌は長さ1~4ミクロン、幅0.3~0.6ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の棒状の菌で、表面はロウ状の物質の丈夫な膜で覆われ、いくつもの菌がくっつきあって房のようになっているのが特徴です。分類学的にはハンセン病を起こすらい菌とともに「抗酸菌」という仲間に属します。

結核菌は細菌としては酸やアルカリに対する抵抗性が強いわりに、日光の中の紫外線には弱いので殺菌灯(紫外線灯)が感染防止に用いられることがあります。

患者の病巣には菌が何千万、何億の単位で含まれていますが、このような患者の痰には多量の菌が入っています。1mlの痰のなかに1万単位の菌があると、痰をガラス板に塗りつけ染色し、顕微鏡で調べるだけで結核菌が検出されます(「塗抹陽性」といいます)。

しかし痰に含まれる菌が何千個程度ですと顕微鏡では分かりません(「塗抹陰性」)。その場合は痰を培養し増殖させて、はじめて菌を証明することができます(「培養陽性」)。 結核菌は増殖分裂の速度がのろく、1個の菌が2個になるには15時間もかかります(大腸菌では20分くらい)。そのため培養検査の結果を見るには4~8週間もかかり、結核の早期診断上の大きな障害となっていました。最近は遺伝子工学の技術で結核菌の核酸を調べる方法が確立され、小量の菌でも数時間以内に検出することができるようになりました。

10. 結核の薬と薬剤耐性結核

 結核を薬で治すことは人類の長い間の夢でした。1944年、ワックスマンがカビから作り出したストレプトマイシンはその劇的な効果で、まさに「魔法の弾丸」と呼ばれるにふさわしいものでした。続いてパス、ヒドラジドなどが登場し、「結核の治療は化学療法で」することが確立しました。以後も次々と開発され、現在「抗結核薬」として広く認められているものは10種類を越えます。 結核菌はしぶとい菌なので、ある程度の期間薬で叩かないとぶり返します。またその間に薬に慣れて抵抗性になる(「耐性」)ので、2種類以上の薬を一緒に使うのが鉄則です。最新の方式はリファンピシン、ヒドラジドという2種類を軸に最初4剤、続いて2~3剤を合計6カ月使う、というものです。

 結核菌に「耐性」を作らせないためには、●薬をきちんと服用する(のんだり、のまなかったりは最悪)、●十分強い薬を複数組み合わせて治療する、ことです。不幸にもこの原則が活かされずに薬剤耐性になった人から出た結核菌で感染を受けた人は、発病したときから耐性ですから治療はかなり厄介です。大切なのは耐性を作らないための患者・医師の連携プレーと言えましょう。

11. 結核をなくすには、またDOTSとは

 感染→発病→感染→・・・という連鎖が結核という感染症の広がる仕組みなので、それを断ち切ることが結核対策の基礎です。そのために次のような手だてが行われます。

・BCG接種:感染を受けても発病しないように免疫をつける。主として子供に行われます。

・化学予防:感染を受けたことが分かった人に、発病を防ぐために薬をのませる。対象はやはり子ども、若者です。

・患者発見:発病してしまった人をできるだけ軽いうちに発見して治療につなげる。健康診断や医療機関の受診が含まれます。

・治療:発見した患者を化学療法で治し、感染源にならないように、健康な生活が取り戻せるようにする。

 ほかにこれらの手だてを支えるための方策として患者や家族への指導、患者の登録制度やそれに基づく流行監視(サ-ベイランス)、対策従事者の訓練なども結核対策として重要な活動です。そしてこれらの活動が効果的に行われるよう、皆さんの十分な理解、積極的な参加と支援が必要です。

世界に目を向けましょう。途上国で結核が大蔓延していて、各国でその対策に大わらわなのは皆様ご存じのこと。今は短期化学治療が本流ですが、薬の服用を途中でやめる人が多いのが頭痛のもとでした。患者が治らないどころか、耐性菌を生み出し、後世までも害を及ぼします。そこでWHO(世界保健機関)の結核対策本部では「薬を患者には手渡さないで、毎日外来に通ってもらい、職員の目の前でのませる」方式を打ち出し、これをDOTS(Directly Observed Treatment, Short course)として、結核の標準的な治療方式としました。これが次第に普及して大きな成果をあげています。